学園アリス
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『ここでいいです』
私はタクシーの運転手にお金を渡して車から降りた。
『……相変わらず無駄にでかいところだなぁ』
その外見に思わず苦笑してしまうのは、きっと私が外の世界を見てきたから。
『どこもおかしいとこないよね?』
自分の格好を見回し、どこにもおかしいところがないことを確認する。うん、誰がどう見ても小学生だよね。
『ふぅー……、よし、行こう』
息を吐き、覚悟を胸に抱えた私は足を動かして門のところに居る守衛に話しかける。
『あの、入学する雪峪 愛美なんですけど…』
「あ、はい。話は聞いてます。
どうぞ、車に乗って本部まで行ってください」
『はい、わかりました』
そして私は車に乗り、本部に向かう。だいたい学園の敷地内でも車で移動とかどれだけ広いんだ。
外は、こんなんじゃなかった。
のどかな緑に溢れたところや、食べることさえも困難な地域。
沢山の"世界"。
きっとあの日、私はここから出てなかったら一生知ることはなかった。
「着きました」
それに私はドアを開けて車から降りる。自然と見上げた建物――本部はどこも変わってなくて、ただただデカかった。
素直な感想を言うと、
『……懐かしいなぁ』
ポツリと、誰にも聞こえないくらいの声で呟く。と言ってももう車は居なくなってるけど。
そうして私は案内役の教師にに連れられてある部屋――応接室に入る。
ここで待つように言われて、私は座りなれたようにポスッとソファーに腰掛けた。
『はぁ…、ほんとに、帰ってきたんだな……』
じわじわと"帰ってきた"と実感が湧いてくる。本当はそんなこと思いたくないのに、
「ここは愛美の家で、俺らはみーんな家族だ!」
そう言ってくれた貴方がいるから、だから私はここを家だと呼ぶことが出来た。
大事な大事な、私のお家。
あんなに帰って来たくなかったのに、体はこんなにも正直。
――帰って来れたのが嬉しくて涙を流したなんて
一筋零れた涙を拭っていると、
「失礼しま〜す♡」
オカマみたいな声が聞こえた。
その声に驚いてパッと顔を上げた私の視界に映ったのは、
あの頃と変わらない綺麗な金髪と青い瞳だった………。
「はぁ〜い、僕は君のクラスの担任の鳴海です♡
これからよろしくね〜♡」
…え、この人って…先輩、杏樹先輩…だよ、ね?鳴海って言ったし、絶対杏樹先輩だよね!
なにこの喋り方!!
いつものクールでドライな杏樹先輩はどこいったの…!?
こんなの、私の知ってる杏樹先輩じゃない……。
私が呆然としてると、
「ん?どーしたのかな?
(この子、あいつに似てる……)」
杏樹先輩がそう思ってるとは露知らず、ハッと飛ばしていた意識を戻した。
『あ、っと…はじめまして。
雪峪 愛美です!
こちらこそよろしくお願いします!」
ぺこりと杏樹先輩に頭を下げる。
「(気のせい…か?)
うん、よろしくね〜♡」
互いの自己紹介を終えた私たちは、またも車に乗り込み今度は初等部まで移動する。
たわいもない会話をしていると、
「あ、これ愛美ちゃんのバッチだよ♡」
はい♡と渡されたのは、懐かしの星。それも3つ。
前はプリンシパルだったが、それは自分の本当のアリスを隠してなかったから。今は全能のアリスを隠してもともとの氷と全能のアリスから記憶の二つ。
『え、あの……』
「あ、星階級システムは知ってる?」
「はい、…でもどーして私が、」
いきなりトリプルはおかしい。
わざわざリーズナブルな氷と少し珍しいけど今後の為を思って記憶のアリスの2つにしたのに。
「ん〜、愛美ちゃんのアリスの能力が高いからかな?」
杏樹先輩はほんの少しだけ考える素振りを見せたが、サラッと在り来たりな答えを口にした。
それから数分車を走らせると、
「はい、着いたから降りようか」
そんな先輩の科白に、私は車から降りた。…今日何回この動作やっただろう。
派手な服を身に纏った先輩の後ろを着いて歩くと、ある教室の扉の前で止まった。
「はい、ここが愛美ちゃんのクラス、初等部B組だよ」
その言葉に、私の胸は高鳴る。ここに、柚香先輩の子供がいる。
そう思うだけで、なんだか泣きそうになる。
「それじゃ、行こうか」
杏樹先輩はニッコリと笑うと、その扉に手をかけた。