The philosopher's stone

□07
1ページ/4ページ




『っ…ハッ、ハァッ……!』







渡り廊下には、私の荒い息遣いしか聞こえない。




やはり授業中ということも手伝ってのことなのか、こうも人っ子一人の気配もないとは、どこか不思議な気分だ。



…だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。





私は長い道のりを一心不乱に走り、漸く一つのドアの前でせわしなく動かしていた足を止めた。








『ハッ、ハッ……ハァ――――、』








この扉――――いや、この部屋の存在は知っていて初めて現れる。



ここを知らぬものにとったらここはただの壁にしか見えない。








『…《我の声に応えよ》』








そう言葉を紡ぐと、ドアは一瞬だけ眩い光を放ち仕掛けがはずれた。



なぜ、ここで開錠呪文を唱えなかったのか。


それは…この扉はそんなものでは開かない仕組みになっているから。




特定の声と言葉でしか開かない。


それほどこの部屋―――“癒しの部屋”は繊細なのだ。








私は意を決して扉を開けた。

























――――ガチャ、



『……ジェームズ、リリー』









さっき校庭で聞こえてきた声の主…ジェームズとリリーの名前を呼ぶ。



だけど、返事は返ってこない。





それは、何度も経験したこと。

頭では理解しているのにも関わらず、身体は…心はヒドく落胆する。





ソッと二人が眠っているベッドに近づく。



“死んだように眠っている”




まさに、その例えがピッタリ立った。









『……ねえ、さっき…私のこと呼んだよね?』






ゆっくりと話し始めた私の声は、部屋の中に吸い込まれていく。



なのに私は話すことを止めない。







『もしかして…ジェームズはさっきの箒が私の顔に直撃したの、見てた?

だとしたらヒドいよね』







うりゃ、とジェームズの鼻を軽く摘む。


いつもこの仕草は、私がやられる方だった。








『リリーも…呆れてたの?

それとも心配してくれてた?


…リリーのことだから…きっと後者だよね!』







て言うかそう信じたい。
最後にそう付け足して、私はリリーの手をギュッと握った。




それは、決して暖かくはない。

だが、冷たくもない。



ただそれだけで―――二人は生きているんだと証明してくれていた。








『…早く、目ぇ覚ましてよね。
でないと二人の話…あることないことぜーんぶセブとかアルバスとかに話しちゃうんだから』








起きていたらきっと二人は猛反発してくるであろう。



そんな未来を想像して、クスッと笑みを零した。









『また来るよ。

今度は私一人で喋りたくないから。
だから…起きててよね、プロングス、リリー』








二人の額に交互にちゅ、とキスをしてから私は癒しの部屋からでた。






















.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ