The philosopher's stone
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『っ…ハッ、ハァッ……!』
渡り廊下には、私の荒い息遣いしか聞こえない。
やはり授業中ということも手伝ってのことなのか、こうも人っ子一人の気配もないとは、どこか不思議な気分だ。
…だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
私は長い道のりを一心不乱に走り、漸く一つのドアの前でせわしなく動かしていた足を止めた。
『ハッ、ハッ……ハァ――――、』
この扉――――いや、この部屋の存在は知っていて初めて現れる。
ここを知らぬものにとったらここはただの壁にしか見えない。
『…《我の声に応えよ》』
そう言葉を紡ぐと、ドアは一瞬だけ眩い光を放ち仕掛けがはずれた。
なぜ、ここで開錠呪文を唱えなかったのか。
それは…この扉はそんなものでは開かない仕組みになっているから。
特定の声と言葉でしか開かない。
それほどこの部屋―――“癒しの部屋”は繊細なのだ。
私は意を決して扉を開けた。
――――ガチャ、
『……ジェームズ、リリー』
さっき校庭で聞こえてきた声の主…ジェームズとリリーの名前を呼ぶ。
だけど、返事は返ってこない。
それは、何度も経験したこと。
頭では理解しているのにも関わらず、身体は…心はヒドく落胆する。
ソッと二人が眠っているベッドに近づく。
“死んだように眠っている”
まさに、その例えがピッタリ立った。
『……ねえ、さっき…私のこと呼んだよね?』
ゆっくりと話し始めた私の声は、部屋の中に吸い込まれていく。
なのに私は話すことを止めない。
『もしかして…ジェームズはさっきの箒が私の顔に直撃したの、見てた?
だとしたらヒドいよね』
うりゃ、とジェームズの鼻を軽く摘む。
いつもこの仕草は、私がやられる方だった。
『リリーも…呆れてたの?
それとも心配してくれてた?
…リリーのことだから…きっと後者だよね!』
て言うかそう信じたい。
最後にそう付け足して、私はリリーの手をギュッと握った。
それは、決して暖かくはない。
だが、冷たくもない。
ただそれだけで―――二人は生きているんだと証明してくれていた。
『…早く、目ぇ覚ましてよね。
でないと二人の話…あることないことぜーんぶセブとかアルバスとかに話しちゃうんだから』
起きていたらきっと二人は猛反発してくるであろう。
そんな未来を想像して、クスッと笑みを零した。
『また来るよ。
今度は私一人で喋りたくないから。
だから…起きててよね、プロングス、リリー』
二人の額に交互にちゅ、とキスをしてから私は癒しの部屋からでた。
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