学園アリス

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渡り廊下にある小さな扉。それは、悪しき地下への入り口――――







――――ギィ……バタン、






『……レイ、』






待ってて、零……!














あれから数分後、元々暗闇の中でも目が良いあたしは周りを注意深く見ながら前へと進む。



向かうべき場所は決まっている。





――――地下牢だ







あそこはレイが昔幽閉されていた所、だからこそ何か掴めるかもしれない。


それに、実の所ある情報を姫さまから頂いた。



“地下牢にある女が幽閉されている”




これが真実か否かを確かめるためにも行かなければならない。

…まあ、姫さまの言われる事に間違いはないと思うけど。






そうこうしている内に、目先に目的の物が見えた。







『……久しぶりだなあ…ここも、』





良く泉水兄と一緒に来たな、と思い出しクスリと笑う。

そこで、漸くその中に誰かがいる事が分かった。






……姫さまのおっしゃった通り、女の子。


だけど、彼女からは“アリス”が感じられない。


つまり、一般人。なのに何故“アリス学園”(ここ)にいるのか。


あたしは少し考えるも、先に話した方がいいかなと思い彼女に近寄った。







『……こんにちは、』

「こんにちは…あの、貴方は…」






少し視線を虚ろにさせている。まるであたしがどこに居るか分からないような反応。



目が暗闇に慣れていない、なんて言い訳は当てはまらない。

だって彼女はずっとここに居たのだから。


……だとしたら、






『あたし雪峪 愛美って言うの。貴方は?』

「あ、私は“雪葵”といいます」

『(花名…?)そっか、雪葵…んー葵ちゃんでいい?名前長いし、』

「はい、構いません!」

『ありがと、んと…葵ちゃんはどうしてこんなとこにいるの?』






葵ちゃん、と呼ぶと彼女は嬉しそうに目を細めた。


まさか…これが雪葵の本当の名前…?






「私はここで、ある親切な方のご厚意にお世話になっているんです。


私、目が見えなくて…だからここで目の治療を受けさせてもらいながら、その恩人の方のお世話をする仕事をさせてもらってるんです」






目が見えない…だから視線が虚ろなのか。


それにしても……“ある方”って言われて思い浮かぶのは一人しかいない。






『目が悪いんだ?それじゃあ葵ちゃんってここに来る前にどこに居たとか覚えてる?』

「……いえ、それが全く…」






少し顔を俯けた葵ちゃん。


それにあたしはやっぱり、と確信した。



“ある親切な方”とはレイの事で間違いないだろう。


そして記憶を操作して彼女に自分を信用させてここに閉じこめた。







まるで、昔の自分のように。








あたしはそれをフと思いだし、瞳を閉じた。


あの頃のレイは、周りの全てが怯える対象だった。しかし今ではどうだろう。


彼が、生徒の脅える対象ではないのか。







『……葵ちゃんは、その人の事を今どう思ってるの?』

「…私、彼……仮面の君の事は温和で優しい方だと思っています。


ここは以前あの方が幼い頃から住まわれていた場所。




そんな幼い頃からあの方は孤独で、謂われのない迫害を受けて、



私…あの方のそんな深い悲しみが少しでも晴れてくれるように、何とかお慰めできたら、と思っています…」






レイがここに居た事、彼が孤独だったこと、全て分かってたしこの目で見てきた。


だけど、第三者…葵ちゃんから改めて聞かされると、こんなにも辛いモノだとは思わなかった。






『……そっ、か……、』







どうしよう、





涙が、止まらない







「愛美ちゃん?」

『……葵ちゃん、』






――――レイを、支えてくれてありがとう






柵にあった葵ちゃんの手に、自身の手をソッと重ねる。


暖かい、彼女らしい体温。



その時、声が聞こえた











《葵はかわええなあ》


『っ!』


《ほんま…母ちゃんは葵の笑顔が一番好きやで》


『この、声……』

「愛美ちゃん?どうしたの??」






頭に直接響いてくる、関西弁。







《あーあ、早く愛美に会わせたいわあ…うちの息子と娘を、》


『ッッ、かお、る……せんぱ、』


《あんたらも早く愛美に会いたいやろー?







――――棗、葵》







そうか、




この子は…葵ちゃんは、






馨先輩の、子供…



棗の、妹か……。








流れてきた声にあたしはふふ、と笑う。


彼女の声によって涙はさらに流れ出す。






『……葵ちゃん、』

「は、はい?」

『敬語じゃなくていいよ。


あのね、確かに…仮面の君を支える事はとっても大事。

だけどね、貴方には他に帰るべき所がある。

貴方を待ってる人が居る』







だから棗は花姫殿の言葉に反応していたんだ。


ここに、葵ちゃんがいる事を知っていたから。








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