学園アリス

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「……ユーレイ」









ポツリと呟かれたその声は、静かな部屋を響かせるには十分だった。





……ていうか、ユーレイって何?


そんな場違いな考えを巡らせてるあたしを余所に棗はどんどん秀ちゃん達を追い詰めていく。








「通報するならさっさとしろよ。

それで“穴”の事がバレてここをいろいろ調べられて困るのはもしかしてお前らも一緒じゃないのか」


「な…」


「……どこまで知ってる」


「…さあな」








一触即発な空気にあたしはどうしてそこまで知ってるんだろうと疑問に思う。








「うち…っ、蛍を助けたいんです!

あいつら(Z)から特効薬を…委員長のアリスを取り返して…。


だから、あいつらがここ(学園)に入ってきた穴の場所が知りたいんです!




お願いです、穴の場所…知ってるなら教えて下さい!!」








蜜柑の必死な訴えに、あたしは目を反らすことなく見続ける。



…どうやったら、そこまで強くなれるんだろう。





そこで、秀ちゃんは蜜柑の頭に手を置いた。



そこで一言呟き、アリスを使おうとしたけど、蜜柑が秀ちゃんをドンッと押した。








「何か知ってるくせに……何でなん。

何で穴を…Zの奴らを庇うの!?
あんたらがZの仲間やから!?

蛍のお兄さんのくせに…。
あんな苦しそうな蛍を間近で見てたくせにっ。



なのに、何で……『さっきからウルサいなあ』








今まで黙っていたあたしが蜜柑の台詞を遮る。



そのせいでみんなの視線はあたしに向いた。



今にも泣きそうになってる蜜柑を一瞥する。








『さっきから黙って聞いてたらさあ…お前何様なんだよ』









これは、演技なんかじゃない。


本気で、蜜柑に対してキレている。




確かにあたしにとって蜜柑は大事だ。
けどそれは柚香先輩と泉水兄の子供だから。





もしそれが無ければ守ろうなんて思わない。

だってあたしはそんなに出来た人間じゃないから。




だけど、だけど秀ちゃん達は違う。


杏樹先輩も、秀ちゃんも昴ちゃんも後輩達も、みんなみんなあたしが接してきて“守りたい”と思ったから。






そんな人たちをこんな風に言われて、キレない人はいないでしょ?








『まず第一に、蛍にケガを負わせたのは佐倉 蜜柑、あんただよ。

そして第二に、秀ちゃんや昴ちゃんの事何も知らないくせに悪く言うの止めてもらえるかな』


「愛美先輩…」


「っ…そんなんあんたに言われたくないわ!

蛍のことどーでもええって思っとる奴なんかに…!」







憎しみの籠もった目で睨みつけてくる蜜柑にあたしも負けじと睨み返す。




これだけは、譲れないの。





仲間をこんなに言われて、黙ってるなんて出来ないよ。








『さっきから矛盾してんのよ、あんたの言い分。

秀ちゃんに「知ってるなら教えて下さい」って言ったくせに「何で教えてくれないの?」ときた。



挙げ句の果てには「Zの仲間だから」…お前、ナメてんの?』


「っ愛美、落ち着け!!」


『ちょっと黙ってて、翼先輩。








今、あんたが置かれてる状況が一番危険なの!!
この学園で一番!!

そのあんたがこの学園から出るなんて「誘拐して下さい」って言ってるようなもんなの!わかる!?





しかも自分の身勝手な行動で蛍はあんなケガしたってのに、それを昴ちゃんに責任転換!?

ふざけんな! 自分のしたことは自分で責任持てよ!


反省したのはその場限り?
後はもう自分は関係ない?


そんなの余所でやってろよ。
今自分がやってんのは偽善だって分かってんの?』








あたしの言葉に怯む蜜柑。

それを庇うかのように立つ棗。








「……もういいだろーがよ」


『……一体何がもういいの?
そんな不安定な状態で向こうに行ってもすぐに殺られるだけ。

だったらもうここにいたら?』


「……だから俺がいるんだろーが」


『…あっそ。
だけど、あたし許さないから。

昴ちゃんの苦しみも、秀ちゃんの苦しみも知らない奴が二人を責めないでくれる?』








ガンッと近くにあった机を殴る。

少し朱が散る。



……そして、触れた柔らかい感触。








『…昴ちゃん、』


「もう、十分です…愛美先輩」


『っ……』


「やっぱり、僕らの先輩だね。
そんな風に僕らの為に怒ってくれる人は…もう居ませんから」








悲しげに零す秀ちゃん。
ソッとあたしの手を治す昴ちゃん。


…杏樹先輩、とかもなのかな。









『……ばか』


「あなたには負けますよ…はい、出来ましたよ」


『……ありがと、昴ちゃん』


「いえ、こちらこそ」








ありがとうございましたと微笑んだ昴ちゃんに秀ちゃん。


それにあたしもホッとしたのかポロリと暖かいモノが頬を伝った。



















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