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□僕が知らないカオ
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「もう会わないようにしよう」


僕がそう言ったら、夕月は悲しそうな顔になると思ってた。
昔から泣き虫の夕月のことだから、きっと泣くだろう。
静かに、小さく嗚咽を上げながら泣くのだろう。
そう思っていた。


「・・はい」


でも、夕月は笑っていた。
泣きそうな顔で、笑っていた。

キミがいつからそんな強がりになったのか。

キミとの距離は、確かに広がっていたらしい。






最初、僕が祇王と対峙したとき、「僕は君の敵だ」と告げたとき、夕月は確かに泣いていた。
しゃくり上げながら、涙を零し続けていた。


それから想いを告げてしまったときも、嬉し泣きをしていた。

幾度も内緒で会って、会う度に泣きそうな顔で別れる。


あれが普通だと思っていたのに。




「しょうがない・・ですよね。最近、戦いが激しくなってきてますから・・」


夕月は泣きそうでもない、困ったように笑って、そう言った。



泣き虫のキミ。
まだまだ幼いキミ。



僕はずっとそう思っていたけれど、
キミはいつの間にか、大人になっていたんだね。




「・・夕月」

名前を呼ぶことさえも躊躇われる。
こんな感情を、僕は知らない。


「・・本当に、さよなら、だ」

泣けばいいのに。
泣いてしまえばいいのに。


意地悪なんかじゃなくて、
もっと深い気持ちが湧いてくる。



まだ昼間だというのに、室内は薄暗い。
カーテンは開けているのに、日は一向に差さない。


夕月の去った後の部屋は、夜の闇よりも深く暗い。






◇奏多さん視点です。初めてでちょっと緊張しました。


拍手&感想、ありがとうございました。

私も夕月受け大好きなので、書くことができてとても幸せです。まだまだ初心者ですが、よろしくお願いします。




 

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