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□星と雷と君
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いつかは離れていってしまうんだろう。


外を見ると、墨汁で薄く塗り広げたような曇天が空を覆っている。
雨が降りそうで、降らない。
限界点にあるその雲は、普通の雨雲よりも、深い暗さがある。



夕月は机の上に置いていた小瓶を手に取る。
小瓶の中には、綺麗な砂が入っている。
いわゆる「星の砂」という名前の砂。



『星が、欲しいな・・』


何気なく呟いた夕月の一言に、黙って動いてくれたルカ。
どこで手に入れたのか、星の砂を、星の綺麗な夜にくれた。


ごろん。
手のひらで、小瓶を転がす。
中の砂が、音も立てずに揺れている。



ルカは優しい。
どうしてって思う程、優しい。
時々不安になるくらいに、優しい。


いつかは、離れていってしまうのだろうけど。




夕月がぼーっと「星の砂」を眺めていると、突然、耳をつんざく険しい音がした。

雷。

稲妻は見えなかったが、音は確かに大きく、確かに近い。



雷は嫌いだ。

周りの音を、何もかも打ち消してしまう。


自分を包んでくれる優しい音たちを、全て殺してしまう。



夕月は椅子から崩れるようにおりて、頭を抱える。

恐い。



「・・・あ・・」

そして雷は、彼の来訪の音も消してしまう。



「ユキ」

雷の音に負けないくらい大きな声だから聞こえるんじゃなくて・・
これは、雷に負けないくらい近いから聞こえる声。

胸に抱き寄せられていて、顔が見えない。

でも、
どうしてだろう、
凄く安心する。


「ルカ・・」


「大丈夫だよ」

どうしてキミは、


「俺の音だけ聞いておいで」


キミはそんなに、優しいのだろう。






◇サイリくんの言葉があまりにもかっこよくて。



 

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