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□裏切りを裏切る。
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闇夜よりも深い、黒。
雪よりも冷たい、目。
けれど、根雪の下で春を待つかのように、自分を待ってくれていた、優しい心。
人を近づけさせない。
すべての人を拒否すると言った彼が、今、自分の上にいる。
なかったはずの想いが、彼の体からとめどなく溢れているようだ。
「夕月・・」
幼い頃より、低い呼び声が、甘く耳朶をくすぐる。
体を優しく撫でる彼の手を拒めないのは、きっと、自分の中にある本当の想いのせいだ。
ヒトは、これを裏切りと呼ぶに違いない。
「夕月・・」
「あっ・・あぁっ」
レイガ――奏多が夕月自身を優しく、激しく扱き上げる。
夕月は、素直にか細い声を上げて果てた。
「夕月・・」
なぜ貴方は
「夕月、――・・・」
泣きそうな声で、僕を抱くんだろう。
*
「ユキっ・・・」
「ルカ」
動揺を隠しきれないルカに、夕月は冷静さを保った声音で諌める。
一度目を伏せたが、夕月は無理矢理微笑んだ。
「これで悪魔との争いも終わるんだよ」
「そういう問題じゃない!」
「これは、僕の意志でもあります」
きっぱりと言い放つと、ルカは苦虫を噛み潰したような表情になり、強く握り締めた拳を壁に叩きつけた。
「僕は・・僕の意志で、裏切るんです。祇王の皆と・・ルカを」
ルカを真っ直ぐに見つめる夕月の瞳は、決して濁っていない。
「僕は、ルカと同じように、好きな人のために、家族を裏切るん・・」
不自然なところで、言葉が切れた。
夕月の目の前に、ナニかが落ちてきたのだ。
おそるおそる見下ろすと、地面には、血まみれの・・レイガの姿があった。
「奏多さんっ!」
泣きを孕んだ声で、彼の名を呼ぶ。
だが、彼の体はぴくりとも動かない。
砂利の擦れ合う音・・足音がして、視線を上げると、ルカの隣に、無傷の天白の姿があった。
彼は不敵に嗤いかける。
「すまないね。『裏切り』を裏切ってしまって。夕月を殺すのと自ら死するのとどちらがいいと訊いたら、彼がこの選択をしてしまったものでね」
「・・ユキ」
ルカが夕月の腕を掴んで立たせる。
彼が天白と組んで謀ったのだということは、すぐに分かった。
ルカの表情は、今まで見てきたどれよりも、冷たい。
「裏切りの代償は、どうする?」
たぶんこれは、裏切りの裏切りじゃない。
裏切りの裏切りの、裏切りだ。
◇ルカ、天白ファンの方ごめんなさい!