Short

□キミは優しくする
1ページ/1ページ



雨の中で外にいるのは嫌いじゃない。
雨粒が体に当たるのを感じたら、何でだろう、ちょっとほっとする。



夕月は一人、河川敷にいた。
雨粒が染み込んでいる制服が嫌に重たい。
折り畳みの傘はあるけど、使いたくなかった。

どんよりと重い雲を見上げると、また泣きたくなる。
誰も救うことのできない自分を、責めたくなる。







ルカが怪我をした。
精一杯治癒を施したつもりだけど、でも、まだ辛そうだった。

神の光である夕月は、自身でも狙われていると自覚している。
それなのに、一人で外に出て、ルカに喜んでほしくて、夢中で四つ葉のクローバーを探して。


悪魔が近づいていることにも気づけなかった。

いつの間にか、ルカが真っ赤に染まってしまっていた。
その赤が、彼の体を流れて、夕月の顔に落ちてきたとき、夕月はあまりにショックで、声がでなくなった。

目の前で、ルカが大怪我をした。

ルカは、夕月を責めることはせず、たった一言。


「・・ここにいたのか」







涙が止まらない。
次々に大粒の雫が溢れてきて、拳で拭っても拭っても、拭いきれない。

雨はいい。
雨の中にいると、泣いている情けない自分を隠せる。
・・・自分にだけは、隠せないけど。


ふいに、雨が止んだ。
不思議に思って見上げると、ルカが傘を差し出して立っていた。
自分は濡れているというのに。

「ルカ・・」

「・・・」

「ルカが濡れちゃうよ・・ダメだよ、そんなの。ルカばっかり、ダメだよ・・」

しゃくり上げながらそう言うと、ルカはしゃがみこんで、自分が濡れていることなんか気にも留めず、微笑んだ。


「・・入っておいで」


キミは、いつもそうやって、優しくする。



雨のせいだろう。
きっと雨のせいだろう。


雨に打たれているルカは、泣き笑いをしているように見えた。






◇梅雨時のルカもかっこいい。



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ