PSYCHO-PASS

□出会いのwaltz
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人数の少ない通りを、一人の男が歩いて行く。

白い服から覗く手足は陶器のように白く、髪もそれと同じように白、ただ黄金色の瞳だけが光ってる。

全身からあらゆる色素を廃したかのような細身のこの男は、前方に転がっているものに気づき足を止めた。

ボロボロではあるがどう見ても人が倒れている形だ。
しかし周辺のセンサーの向きから判断するに、その人物には一切反応していない。

全ての人間がサイコパスを持ち、日々管理されているこの世界で、センサーに認識されない人間などただ一つ。死人だ。

だが、いくら人が少ない地域とはいえ荒廃しているとは言えないこの地域で、死人が放置されていると言うことはまずありえない。


「…これは、」


スタスタとそれに近づき足で仰向けにさせた男は、目をかすかに見開いた。
その胸は僅かではあるが上下していたのだ。


「生きているのか…は、これは面白い」


男はじぶんの口角が自然と持ち上がるのを感じた。


story.1 出会いのwaltz



「槙島さん、予定より帰りが遅かったですね。てっきり失敗したの、か、と、」

「チェグソン、布団と着替え、それから風呂を用意してくれ」


チェグソンと言われた男は、白髪の槙島という男の腕に抱かれた人影をみて固まった。
視線に気づいた槙島はこともなげに「拾い物だ」、と言う。


「…拾いものにしては趣味が悪いですね…人ですか」

「詳しくはまた後で話そう。とりあえずこれをどうにかしなくては。僕もススだらけになってしまっては堪らない。」


何人かの男が出てきて、急いで服やら布団やらを用意していく。
バスタブに水をためる水音も聞こえてきた。


「確かに、随分と真っ黒ですね。顔もよく見えないですし。」


チェグソンは槙島の腕のなかで息をする人物を興味深そうにのぞき込んだ。


「それにススとは…このご時世にはほとんど見かけないのに、珍しいこともあるものだ」

「面白そうだろう?」

「ま、あなたが好きそうなものではありますね」


すると一人の男が現れ、風呂が沸いたことを告げる。


「ああ、そうだ。パーカーとか、なにか羽織るものも用意しておいてくれ。」


そう告げると、槙島はそのままバスタブへと消えていった。


****


「やっぱり、どこを探してもいませんねぇ、こんな子」

「シビュラに登録されていない少女、か」


カタカタとパソコンをいじるチェグソンの隣で槙島がつぶやく。
その小難しそうな顔を見て、チェグソンはすこし笑った。


「あなたがそこまで考えるとは珍しい」

「ではきみは彼女の正体が分かるとでも?」

「いいえ、分かりません。ただ、彼女の存在自体がシビュラを脅かす、ということだけははっきりしてますね」

「そうだな。」


槙島は一度大きな伸びをすると、向かいのソファーに寝かせている少女のもとへと向かう。


「それに、まさかその子が女だとは思いませんでしたよ。あなたがお風呂から上がってきたときどんなにびっくりしたことか」

「きみには見る目がないと言うことだな」

「手厳しいことをいいますねえ。」


驚いたのは、気絶しているとはいえ女を槙島がお風呂に入れたことである。しかしどうせ言ったところで取り合わないであろうから、チェグソンは心にとどめた。


「そういえばその子、あなたと似てますね。兄妹みたいですよ。驚くほど整った顔立ちと真っ白の肌」

「似ている?彼女は髪も目も黒だよ」

「どちらもまるで、お人形さんのようだと言うことですよ。外見がね」

「外見が、か」

「ええ、だからあまり怒らないで下さい。あなたの内面は人形とは似ても似つかない。いや、そもそも人形に心などないか」

「こいつもただ従順に社会に従っている人形のような奴だったらどう処分しようかな」

「おお怖い怖い」


その時だった。


『ん…』


少女が動き出したのだ。
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