短編
□出逢いは受動、愛は能動
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「そりゃあ、ずっと見てましたからね。」
『え?』
「今週の月曜日に可愛い人だなって思って。あなたが毎日頑張っていたのを見てましたよ。お疲れ様です。」
『そ、そうなの。ありがとう。でも私も見てたわよ。毎日勉強頑張ってて偉いなって。』
「気付いてくれてたんですか!?嬉しいな。」
目を輝かせる彼に、ふふっと笑みが零れる。
さっきも“毎日”お疲れ様って言ったんだけどな。
『だってほら、その為のデザートでしょ?』
「あ、そっか。あははっ」
二人で笑い合いながら食べるスイーツはとても美味しくて、時間はあっという間だった。
『ふぅ…じゃあ私はそろそろ帰ろうかしら。貴方はまだ勉強の続きを?』
「あ…じゃあ僕も帰ろうかな。」
そう言って彼は片付けを始める。
私は鞄を持って、伝票片手にレジへ向かった。
レストランのドアを出ると肩を叩かれて、振り返れば彼がいて、
「あのっ、僕の分払います!」
『いいのよ、あれは私からのご褒美って言ったじゃない。それに私が勝手に買っちゃったし。』
「でも…」
『いいのいいの!ね?』
いい子だなぁと思いつつ笑顔で押しきる。
「じゃあお言葉に甘えて…ありがとうございました!今度は僕に奢らせてください。」
『ありがとう、そうさせてもらうわ。次に運よく出会えた時に、ね。』
「え?」
『だってほら、私はレポートの為にこのファミレスに来ていた訳であって、普段はあまり来ないのよね。そのレポートはもう完成したし。』
「……そっか…そうだった…。」
え…この予想以上の落ち込みようは何…
こ、これは励ますべき?
『で、でもほらっ!大丈夫よ!だって、このファミレスで合うってことは家も近いってことだから、また合う可能性もかなり高いわよ!』
「……実は僕の家、ここから45分かかるんです。」
『あ、そうなの?じゃあ………って、ええぇっ!?』
45分って…遠すぎでしょ…一体どうしてそんな遠い所から…。
勉強しに来るのに、そんな遠い必要ないわよね…。
『な、なんでそんな…』
「月曜日にこの近くの学校で練習試合があって、その帰りにこのファミレスに来たとき貴女を見つけたんです。
それで貴女にまた会いたくなって、もしかしたらまたいるかなって次の日に行けばまたいて。
そんな感じで毎日…」
『え…』
わ、私に会うため…だったの?
ぐるぐると頭が混乱している私の手が急に握られる。
『わぁっ。』
「あの!メールアドレス、交換してくれませんか!?」
『へ?い、いいけど…』
「あと、もしよかったら僕に勉強教えてくれませんか?」
『べ、勉強?私に務まるかしら…時間は大丈夫なのだけれど…』
「じゃあ是非お願いします!」
ばっと頭まで下げられてしまい、私は慌てて承諾の意を伝える。
ありがとうございますって嬉しそうな笑みを見れば、緩む私の頬。
赤外線でメアドも交換して別れとなった。
彼は駅の方向だから、私とはレストランからもう別行動だ。
「今日は本当にありがとうございました。日程とか、メールしますね。」
『ええ、待ってるわ。じゃあ。』
手を振って別れて、でもしばらく彼の後ろ姿を見ていた。
びっくりするくらい整った顔や少しのつり目から、今まではきつめのイメージだったけれど、本当は笑顔が可愛くて意外と人懐っこい子みたい。
ケータイのアドレス帳を開くと見慣れぬ名前を見つけて。
“沖田総司”くんって言うんだなぁと思いながら、私は家路についた。
――出逢いは受動、愛は能動――
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