短編

□思いがけない恋の予感
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「おい!」

フロアに足を踏み入れた途端にきこえた怒鳴り声。
びっくりして声の主の方を見ると、彼は眉間にシワをよせて不機嫌丸出しの顔で何故か私を睨んでいた。

『わ…私…?』

「早くこっちに来い。」

『…はい…』

彼、土方さんは私の所属する部署の部長。
すっごいイケメンなんだけど、例えるなら鬼、仕事大好き人間。
何か、仕事と結婚しそうな人…。

そんな土方さんがあんなにお怒りで呼ばれるなんて、私何かミスやっちゃったのかな…。

皆の視線を痛いほど受けながら土方さんの元へ歩いていった。

「あの…私何かやっちゃいました…?」

『それを確かめるために呼んだんだよ。だから素直に答えろよ』

「は、はい」

『お前、今夜の合コンに参加すんのか?』

「は?」

合コン?

…そういえば、今晩「高収入男性集めました!」とかいう飲み会に参加することになってた気がするけど…
え?合コンに出席しちゃいけません、なんて規律あったっけ?

いやいや、ないよね。
でも土方さん、めっちゃ睨んでるんですけど…。

「は、じゃねーよ。質問に答えろ」

『…参加しますけど…それがどうかしました?』

「絶対ダメだ。断れ」

『はぁ!?』

さも当然そうに言ってのける土方さんに唖然。
何言っちゃってんの、この人…。

『なっ、なんで土方さんに、そんなこと言われないといけないんですか!?』

「ダメなものはダメなんだよ。これは上司命令だ」

『そんなの横暴です!納得できません!なんで理由もないのにプライベートにまで口を…』

バサッ--

話してる途中にいきなり目の前に現れた紙の山。

『…何ですか、これ…』

「仕事だ。今日中に仕上げろよ。」

『ちょっ…待ってくださいよ!こんなにっ!?これじゃあ残業どころじゃなくて徹夜なんですけど!』

「あほか。徹夜なんざしたら明日になるだろうが。」

ああ、こんな理不尽なことって…

「分かったなら返事。」


『…はい。』

紙束を持って半泣きになりながら席にもどる。
気の毒そうに話しかけてきたのは、隣の千鶴。

「すごい量だね…伝おうか?」

『ありがと〜。でも千鶴も今日の合コン参加だよね?だからそっち優先していいよ。』

「そ、そう?」

千鶴の優しさはすごく嬉しいけど、彼女の出会いを邪魔するのは嫌だもんね。
もしかしたら運命の相手がいるかもしれないんだし。

私はと言えば、そんなに結婚とか焦ってるわけじゃないから…まぁ今回の集まりには縁がなかったと言うことで。

「それにしても、土方さんにすごい好かれてるね。」

…今なんて言った?
好かれてる?そんな馬鹿な。

「だって”合コン行くな”って、嫉妬じゃない?」

『ないない!むしろ嫌われてるでしょ…今回のも何かの嫌がらせだよ、きっと。』

「そうかなー、でも相手の男の人達はすごい残念がるだろうな〜。結構狙われてたんだよ?」

『私が?』

「そうそう。例えばほら、薄桜商社のあの有名な斉藤さんっているでしょ?あの人なんてさ…」

「おい!私語なんざしてて今日中に終わんのか、ああ?」

千鶴の声を遮って聞こえた怒鳴り声は確実に私に向けられていて…

『…ね?嫌われてるでしょ…』

「う、う〜ん…そうかも?」

ほんと、何だってこんなに目の敵にされてんのよ。
さすがの私も泣きたくなってきた。

何か気にくわないことしちゃったっけ?
思い当たることがないんですけど。

でも今はとにかくこの仕事の山を片付けなくちゃ。
これが終わらなければ、それこそ更に嫌われかねない。

私は怒濤の如く情報をパソコンに打ち込んでいった。
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