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彼が生まれた日付を知ったのは、彼が自身の出生の秘密を知った日だった。

10数年前にバイオハザードを起こして廃棄されたL4のコロニー『メンデル』──打ち捨てられていたそこは、地球連合軍やザフト軍から身を隠すのに都合が良い場所だった。
けれど、今思えば、触れてはいけない禁忌の聖域だったのかもしれない。
もたらされた真実は、ラクスとて衝撃を受けるものだった。ましてや、当事者である彼にとっては──。


遺伝子を操作されたコーディネイターは、いわば親から子へ、生まれる前から約束された才能や美をプレゼントする行為の果てに生まれたともいえる。
だが、時として思ったような成果が出ず、落胆が生じる結果となったことも多々あったのだろう。
母体から胎児が受けるリスクを軽減して、安定した母胎、安定した環境で胎児を成長させることができれば、望んだ通りの結果が得られる。そんな考えを持つ人間が出てきたとしてもなんら不思議ではなかった。
現に、出生率が低下の一途を辿るプラントでは、人工子宮の研究も進められていたはず。
──しかし、プラントよりも先に、ナチュラルの一研究者が、それを成し得ていようとは。

ラクスは、ベッドで再び眠りについた少年の寝顔を痛ましげに見つめた。
戦闘に次ぐ戦闘、そして明かされた出生の秘密。
機体を大破させたものの、僚機によってなんとか無事に母艦へと連れ戻されたキラは、帰投直後に意識を失い、倒れてしまった。
身体も精神も疲弊していたのだろう。
その後、意識を取り戻したキラは、ひどく憔悴している様子だった。何があったかを問い詰めることはせず、ただ彼の身を案じて傍にいたラクスに、キラは『メンデル』で知った真実をぽつぽつと話してくれた。まるで、一人で抱えていることが苦しいとでもいうように。
全てを吐き出して、それでもなお悲しげだった彼を、再びベッドへと戻したのはラクスだった。
彼には休息が必要だった。心にも、身体にも。
静かに寝息をたてるキラの顔色は、明かりを絞った室内でもはっきりと見て取れるほどに青白い。
自分が眠ることを勧めたというのに、このまま目覚めないのではないかという不安に駆られて、揺り起こしたくなる衝動を、ラクスはぐっと堪えた。

(わたくしには、なにができるだろう……)

ただ傍にいることしか、今はできない。
戦場から逃してあげることもできない自分に、一体なにができるだろうか。
自問自答を繰り返しながら、それでもラクスの胸の中には、揺るがない確かな答えが芽生えていた。
たとえ、どんな生まれ方をしたのであっても──キラが、キラであることに、かわりはない。
必死に、もがくように生きて。そして、いまここに確かに存在している。
その命を、その生き方を。ただ、ただ──抱きとめたいと願う。

(あなたが、ここにいることに感謝します)

彼が揺らいでしまいそうになったとしても、きっと自分は何度でも繰り返すだろう。

(あなたが、ここに存在することが、わたくしにとって幸福なのだと──)

ラクスは身を倒して、キラが眠るベッドへと頭を預けた。彼の眠りを妨げないよう、触れないほどの距離で、静かに目を閉じる。まるで祈りを捧げるように。

(わたくしは、あなたの命を肯定し続ける)

たとえ、誰かに批難されようとも。
それが、神であろうとも。


来年の、5月18日には。
戦場ではない、どこか別の場所で。
きっと、あなたに告げるでしょう。


「生まれてきて下さって、ありがとうございます」


わたくしは、きっと。
この誓いを違えはしない。


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久しぶりの更新&キラ誕生日なのに薄暗くて申し訳ありません。
キラへの愛情だけは詰まっている。(つもり)


キラ!Happybirthday!!

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