Water&Flowers

□Fatalism
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港に着岸した飛行艇から、キラは慣れた身のこなしで陸へと降り立った。

片手には、最近身に着けるようになった長衣を抱えていた。
自らの立場を周りに明確に示すには、『衣装』が一番わかりやすい。
まだ着慣れない感はあるものの、役に立つアイテムだった。

砂浜を踏みしめながら、館へ向かっていると、前方に人影が見えた。

「おかえりなさい」

静かな佇まいで迎えてくれたのは、キラが現在、師と仰ぐマルキオ導師だった。

「ただいま戻りました」

「ご苦労様でした。カガリ殿はお変わりありませんでしたか?」

問いかけに、キラは苦笑を返した。
二人で並んで、館への道筋を辿りながら、キラは答えた。

「相変わらず……元気でしたよ。また、すぐに呼び出されそうです」

それだけ頼りにしてくれているのだと、嬉しい気持ちもあるけれど。
こき使う、と、最初に宣言された通りの状況に、少し笑ってしまう。

「オーブ国内は落ち着いているとはいえ……それだけ、世界はいまだ不安定さを残しているのでしょう」

「…残念ながら」

「それで良いのだと思います。世界を変えるのには時間がかかるもの…。突然すべてを丸く収めたとして、後々反動が厳しいものとなりかねない…。加減が難しいのです」

師の言葉に頷きながら、キラは歩を進める。

再びマルキオ導師の島へ戻ってから、一年半が過ぎようとしていた。
導師に教えを請い、世界情勢や政治について学ぶ日々。
穏やかだが、密度の濃い時間を過ごしてきた。
最初はマルキオ導師の付き人だったのが、やがて導師の補佐を務めるようになり、最近では導師の代理として一人で動くことも出てきた。
そのために用意したのが、導師が身に着けているものとよく似た長衣である。
着実に、前へ進んでいる実感があった。

オーブや、プラントで。それぞれが、それぞれの道を歩いている。願う未来は同じだと信じて。
離れていても、同じ方向を目指す仲間達がいるのは、とても心強いことだった。

館へ戻ると、マルキオ導師はテラスへと向かった。キラもそのままついて行く。

そろそろ陽が沈みかけた海辺は、オレンジ色に染まっていた。
燃えるような陽光に、キラは目を細めた。作り物ではないリアルな自然は、人間を圧倒する強さを秘めている。

すでに子どもたちは館に戻り、夕食の準備を手伝っているのだろう。遠くから食器のこすれる音や、人の声が切れ切れに流れてくる。

穏やかな日常が、そこにはあった。


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