Promise

□one day
1ページ/3ページ

子供たちが朝食を終えたリビングでは、賑やかな声と、後片付けをする音が響いていた。
各々自分の食器は、自分で下げる。それがルールとなっていて、小さな子供たちも危なげな手つきで食器を運んでいた。様子を眺めていたキラが手を出すより早く、見かねた年長者が重ねられていた食器数個を代わりに引き受けて、キッチンへと仲良く向かう姿に、子供たちの自主性を感じて目を細めた。
未曾有の災害と、慣れ親しんだ住居を失った事実が、再び子供たちの心に陰を落とすのではと心配していたが、大人の気鬱をよそに、彼らは新しい生活に順応してくれたようだった。

ユニウスセブンの地球落下事件から数日──それまで暮らしていた島が被災し、マルキオ導師らは、オノゴロ島にあるアスハ家所有の別荘に居を移していた。
二年前、共に戦火を潜り抜けたマリュー・ラミアスや、アンドリュー・バルトフェルドが住んでいた屋敷に身を寄せた形だったが、十分な広さと設備を兼ね備えた邸宅は、住民が一気に増えたところで何も問題はなかった。

ラクスと母が食器を受け取りながら、手早く洗っていく様子を眺め、ついで窓の外へと視線を転じる。
晴れ渡った青空に、遠い水平線。穏やかな景色は、数日前の地獄絵図のごとき光景が幻だったのではないかとさえ思わせる。
自分がここにいることこそが、あれが現実に起こったことなのだと告げていたけれども。
高波で多少は被害が出たものの、オーブでは深刻な被害は報告されていなかった。
あえていうなら、入港しているザフトの新鋭艦が、現在この国にとって最大の問題になっているといえた。
コーディネイターがユニウスセブンの落下を引き起こした真犯人として全世界に報道されたことで、再び、地球・プラント間は緊張状態に入っていた。
危うい均衡ながらも保たれてきた平穏な日々が、脆くも崩れ去ろうとしている……。忍び寄る崩壊の足音が近づいていることを、全身が感じ取っていた。
ざわざわと、肌が粟立つような感覚。この二年、鳴りを潜めていた感覚が目覚めようとしているのがわかる。
ただの気鬱だと──そう一笑に付すことができればよかったけれど。
先日訪ねてきたアスランの様子を思えば、それは儚い期待でしかない。厳しい現状を見て、体感した彼は、すでに何かを心に決めたようだった。
こんな事態を引き起こさないために、カガリはプラントへ行ったのだろうに。
願うだけでは、やはり世界は変えられないのだろうか……。

爽やかな朝の風景の中、どんどんキラの心は沈んでいった。
再び戦いの火蓋が切って落とされたなら。自分は、どうしたらいいのだろう。
今や何の力もない、ただの一般人でしかない自分。とはいえ、自らオーブ軍へと志願することもできない。キラという存在は、カガリにとっても、オーブにとっても諸刃の剣だ。
地球軍、プラントどちらにとっても、因縁を抱えていることを、キラ自身自覚していた。

「お兄ちゃん!」

唐突な声に思考を断ち切られ、キラは目を瞬いた。いつの間にか傍にきていた少年が、ニコニコとこちらを見上げていた。

「お外行きたい。一緒に行こう!」

暗い気持ちを無理やり封じこめて、キラはぎこちなく微笑み返した。小さく頷くと、はしゃいだ声が上がった。
次々に周りを子供たちに囲まれ、数人に手を取られると、玄関へと誘導される。
勢いに負けるような形で歩きながら、慌ててキラは後ろを振り返った。視線が合ったラクスと母は、穏やかに微笑んでいた。

「子供たちをお願いしますね」

ラクスの言葉に頷き、キラは子供たちに急かされるまま外へと向かった。



*****
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ