Promise

□The end of...
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穏やかで優しい日々を。願うことはそれだけなのに。

もたらされた知らせは───ささやかな祈りすらも打ち砕くものだった。

開け放たれた扉からテレビの声が漏れてくる。

その言葉を耳に留めて、ラクスの表情は歪んだ。
痛みを覚えた胸をそっと押さえる。

『ユニウスセブン』

それは、悲劇の墓標の名。
先の戦争の引き金となった事件で、多くの命を抱えたまま散り、今もなお宇宙を彷徨い続ける、哀しみの大地。
悲劇が繰り返されぬようにと祈りを込めて、停戦条約が結ばれた場所。その大地が。
今、この瞬間も地球へ近づいている。

ひどく不吉な予感がした。胸がさざめくのを止められない。
これが思い過ごしであればいいと願いながら、
ラクスはそっとテラスの椅子を窺った。

そこはキラの指定席だった。今も彼は静かにそこにいた。

テレビの伝える内容が、聞こえていない訳ではないだろう。
だが振り返ることもなく、ただ静かに海を見つめていた。

世界中の人々が、恐怖や不安を抱きながら、情報を欲しがっているのというのに。
まるで、全てを受け入れて死を待つ人のような静けさに満ちた彼。
その姿が、ラクスの不安を煽る。

ひたひたと、近付いてくる足音が聞こえた気がした。
それは、平穏な日々を揺るがす運命の足音か。

(……どうして……)

世界は、穏やかなままであってはくれないのだろう。
少しずつ取り戻される感情や表情に、ようやく痛みが薄らいだと思えたばかりなのに。
憎しみや争い、悲しみという負の感情は、今のキラには毒でしかない。

世界から彼の存在を隠し、この外界から隔離された場所で守ってきた。
フリーダムのパイロットという英雄じみた扱いも、オーブ国家元首であるカガリの弟という肩書きも。
今の彼には必要のない──いや、邪魔でしかないものだ。
ただ日々を過ごすだけの、生きようという意志を感じられないキラには。

(再び、世界が戦場になったら。……今度こそ壊れてしまうだろう)

揺らさないで。どうか、この箱庭を守らせて。

まるで人形のように動かないキラを見つめて、ラクスは哀しげに眉を顰めた。


***
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