Promise

□ゆり籠を揺らす手
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ずっと、このまま──眠り続けていたかった。



ゆり籠を揺らす手



忙しい仕事の合間を縫って、カガリとアスランが島を訪ねたのは、久しぶりのことだった。

子どもたちはとてもはしゃいだ様子で、到着からすぐ二人に纏わりつき、一緒に遊ぼうとねだっていた。
カガリは疲れた顔も見せずに、浜辺で鬼ごっこに興じている。
一方のアスランは、工作の手伝いをお願いされて、細かい木材を組み合わせる作業を、持ち前の手先の器用さで難なくこなしていた。子どもたちが感嘆の声を上げる。

キラはテラスから、駆け回る子どもたちとカガリの姿を眺めていた。
楽しそうに逃げ回る子どもたちの笑顔はいつもより明るい。カガリも仕事のことを忘れて楽しんでいる様子だった。金色の髪が、夕陽に映えて眩しい。
そっと目を細めてキラはその光景を見つめていた。優しい一日が、今日も暮れていく。


穏やかな日々の中に一滴の不穏の雫が落とされたのは、夕食の時のことだった。

「──プラントへ、ですか…?」

困惑したようなラクスの声。答えるカガリの声は、子どもたちと遊んでいる時とは違い、ひどく硬かった。

「ああ。アーモリー・ワン──大戦後に作られた新プラントだ。そこで行われる最新鋭艦の進水式に合わせて、デュランダル議長に会談を申し込んだ」

「最新鋭艦の進水式……あまり、喜ばしいニュースではありませんね」

マルキオ導師の言葉に、大人たちのテーブルに沈黙が落ちた。
子どもたちは食事に夢中で、こちらの会話はほとんど聞こえていない様子だった。子どもたちが立てる賑やかな音が辺りに響く。

「議長との会談とは…?」

ラクスの静かな問いに、カガリが答えた。

「戦時中にオーブからプラントへ避難したコーディネイターの技術者たちが軍事開発に関わっているようなんだ。オーブの技術を流用して、新しい兵器の開発が進むのを…なんとしても、止めなければ」

「直談判するおつもりで…?」

「ああ。すでに極秘裏に会談を申し入れ、承諾は得ている。議長は穏健派のリーダーとも言われているし、オーブの技術者たちの軍事協力を止めさせてくれるよう、要請するつもりだ」

「アスラン君も一緒に?プラントへ行くって、大丈夫なの…?」

オーブへ亡命し、現在は名を変えてカガリの元で働いている彼が、プラントへ戻るのは危険を孕んでいる。
彼を幼い頃から知るカリダは、心配そうな視線を向けた。

「身分を隠して、カガリの随員として行きます。プラントに慣れた人間が傍にいる方が、安全だと思いますので…」

そう、と呟き、カリダは黙った。
すでに決定事項として伝えられた事実は、今さら何を言ったところで覆らないだろう。
ラクスもマルキオ導師も、それ以上語る言葉もなく、再び沈黙が落ちた。

──と、ガタリとイスが引かれる音と共に、キラが立ち上がった。

「キラ…?」

「ごめん、もう…。ごちそうさま」

カガリの発言から一切口を開くことなく、沈黙を守っていた彼は、あまり減っていない食事をそのままに席を立った。
そして、その背中は外へ繋がる扉の向こうへ消えた。
それを見送ったカガリの表情に影が落ちる。

「…やっぱり、あいつに聞かせるべきじゃなかったかな…」

落ち込んだ様子で呟いたカガリを慰めるように、ラクスは静かに首を振った。


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