Promise
□The twinkling star
1ページ/3ページ
「あ…」
子供達の声と食器の立てる音に混じって、小さく聞こえた声にラクスは振り返る。
「キラ?」
声の主の視線は食卓に注がれていた。
何かまずいことがあったのだろうか?
彼の傍へ行き、問いかける。
「どうかなさいました?」
怪訝そうな表情を浮かべたラクスに気付くと、キラは小さく笑ってみせた。
「これ」
そう言って彼が示したのは、皿に盛られた料理。
綺麗な形をしたロールキャベツだった。
「ロールキャベツが、何か?」
「うん…これ、もしかして母さんが?」
「ええ、そうですわ」
夕食のメニューを決めたのも調理をしたのも、キラの母であるカリダ・ヤマトだった。
ラクスは初めて作るので、彼女に手ほどきを受けて手伝っただけで。
「懐かしいなと思って」
「なにか、思い出でも…?」
「うん、僕っていうよりは…アスランに」
懐かしい過去を思い出しているのか、キラの表情はやわらかい。
口元に笑みを刷いたまま、キラは続けた。
「アスランが好きだったんだ、母さんのロールキャベツ。月に居るときね…よく、うちでご飯食べてて。おばさん、仕事で遅くなることが多かったから」
「まぁ、そうなんですか」
キッチンで料理をよそっていたカリダを振り返ると、彼女も懐かしそうな表情を浮かべていた。
「ええ、美味しいって言ってくれて」
調子に乗って何度も作っちゃったのよ、なんて苦笑交じりに寄越された言葉に、そうだったね、とキラが笑った。
「今度、アスランがきたら作ってあげて。きっと喜ぶから」
「ええ、そうするわ」
笑うとこの親子はとてもよく似た雰囲気を持っていると、ラクスは思う。
血の繋がりがないことも、知っているけれど。
やはり、彼らは間違いなく『親子』なのだ。
食事を終え、ラクスは後片付けのためにカリダと二人でキッチンに立った。
今日は、キラが珍しくたくさん食べてくれた。
懐かしい料理に食欲が出たのだろうか。
戦後すっかり食の細ってしまったキラを、二人とも心配していて。
そっと顔を見合わせて、小さく安堵の笑顔をこぼす。
水音と、陶器の擦れる音が響く。背後からは、子供達のはしゃぐ声。とても穏やかな時間だった。
.