Promise

□My reason
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波の音が響いている。
寄せては返し、砂を浚っては再び戻す。連綿と続くこの星の命の営み。
空は落ちる陽の色に染まり、棚引く雲は紅く燃えながら落日の光を弾いていた。
姿を消す前の太陽は一際眩しさを増し、直視できないほどの輝きに目を射抜かれる。

黄金色に染まる波打ち際に、求める人影を見つけてラクスは歩を進める。
足元で砂が軋んだ音をたてた。  
潮の香りを含んだ風が、彼女の髪を踊らせる。

目指す彼の髪もサラサラと風になびいていた。あの頃よりも少し伸びた髪。
波打ち際に立ち夕陽を臨む彼の背中は、なぜだろう、いつも哀しいと思わせる。
そのまま夕陽と同じように海に溶けて消えてしまいそう。
振り返えらない彼の背中は、世界を拒絶しているようにも見える。
そんな風に思う自分が、少し哀しい。

彼の斜め後ろ、手を伸ばせば届く距離で足を止める。
声はかけない。彼の時間、世界を侵したくないから。
ただ寄り添うように傍にいる。それでいいと、ラクスは思う。

海は穏やかに凪ぎ、キラキラと夕陽を反射して輝いていた。
彼女が生まれ育ったプラントとは違う、本物の海。
プラントの海に潮の香りは無い。
プラントの海は地球で言うところのダムだった。塩の混じっていない真水で満たされた水瓶。
地球に――この島に降りて初めて潮の香りを嗅いだ。
知識はあったが、身をもって実感したときはひどく感動した。これが母なる海なのだ、と。

キラの後ろに立ち、彼の望む方へ視線をやる。彼の背中も視界に収めて。
同じものを見れたらいいと思う。
けれど……きっと無理なのだろう。
キラの視線は確かに海へと向いているが、おそらく彼の目に映っているのは目の前の風景では無い。  
それは、彼にしか見えないもの。
今も彼を捕らえて離さない―――哀しい記憶たち。

遠い水平線で、空と海が交じり合う。
赤や橙、紫といった微妙な色合いの空はとても美しい。混ざり合い、溶け合って。
再び同じ色を見せることは無い、生きている絵画だ。

「……きれい、だね」

波音にまぎれるように小さな声が届いた。
ゆっくりとキラが振り向く。彼はとても穏やかで静かな表情をしていた。
彼の瞳の色は、あの空と同じ、淡いむらさき。
逆光の中でも光を湛えて、とても綺麗だと思う。

ラクスはそっと微笑んで、ええ、と頷く。
キラもつられるように小さく笑ってくれた。それがラクスの心にあたたかさをくれる。
少しだけ開いていた距離を詰めて、ラクスはキラの隣へ立つ。

同じ場所で、同じ空を見る。
ただそれだけで、どうしてこんなにも幸福になれるのだろう。
傍らに感じる気配が、ひどく愛おしい。


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