Promise

□ゆり籠を揺らす手
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食事後も、アスランとカガリはカード遊びをねだった子供たちの相手に追われていた。
仕事の忙しさに加え、プラントへ行くのならば、また当分はこちらへ来ることもできないだろう。
二人ともそれをわかっていて、できるだけ子供たちと長く接そうとしているようだった。

カリダと二人、食事の後片付けを終えたラクスは、いまだ戻らないキラを案じてテラスへ向かった。
外に繋がる扉を開けた途端、吹き込んできた風が髪を揺らした。
浜辺の方へ視線を向けると、だいぶ離れた場所にキラの背中を見つけた。彼はいつもと変わらず、海を眺めているようだった。

ラクスは先ほど片づけたキラの皿を思い出していた。半分以上残されていた食事。最近は食欲も戻ってきたと喜んでいたのに。
戦後すぐの頃は、今夜のように食事を残すことが多く、カリダと二人で心配したものだった。
食べるという行為は、『生きる』ことに直結する。あの頃のキラは、眠りも浅く、食べる量も少なかった。
人が生きていくのに必要なものを拒むような姿に、彼がこのまま消えてしまうのではないか、と。不安で仕方がなかった。
ようやく穏やかな日々が訪れたと──信じたかったのに。

カガリがもたらした──プラントが進めている軍事開発の事実が、彼の世界を揺らそうとしている。
もしも、再び争いがおきてしいまったら。その時、キラは──。

「…ラクス」

背にかけられた声に、ラクスは振り返る。物思いに沈んでいたから、背後の気配に全く気付いていなかった。
そこには、暗い表情の暗いアスランが立っていた。

「…子どもたちが、解放してくださいましたの?」

「ゲーム──大人げないけど、勝って先に抜けてきたんだ。……キラ、は?」

その問いに、ラクスは視線だけで答えた。浜辺に佇む背中を見つけて、アスランの顔が痛みをこらえるように歪む。

「ラクス」

「はい?」

「…キラを、お願いします」

真摯な瞳とぶつかって、ラクスはまっすぐに彼を見つめ返した。

「この二年──戦争は終結したけれど、世界は決して平和とはいえなかった…。俺は、もう二度とあんな世界には戻りたくない。だから…俺も、カガリも、できることをやろうと思っています」

「…アスラン」

「プラントの軍事開発は、再びナチュラル側を刺激しかねない。それに、オーブからの亡命者が開発に関わっているとなると、オーブの立場も危うくなる。俺は、この国を──せめて、この島だけでも、守りたい」

まるで、それが贖罪とでもいうかのように。

「あいつの、傍にいてやって下さい」

言われるまでもないことだったけれど。
アスランの切実な想いに、ラクスも真摯な気持ちで頷いた。

「アスランも、どうかお気をつけて──」

ええ、と頷いたアスランに、室内から声がかかった。ゲームが終わったのだろう。「もう一回!」とねだる子どもに、仕方なく応じるカガリの声が聞こえた。

こんな風に、穏やかに過ごせる日々を守りたい。誰もがそう願っていた。

苦笑して室内へと戻るアスランに微笑み返し、ラクスは静かに浜辺へと向かって歩き始めた。


満天の星が、あたりを照らしていた。


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