八雲
□君と僕の“もしも”
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「やあ!」
「…また君か」
「そうよ!もう。また私で悪かったわね」
最近良く来る彼女。他に行くところは無いのかと呆れて、彼女の挨拶に返事をした。
…まあ実際は居てくれた方が安らぐし、楽しいから別にいいのだが。
どうやら彼女は違った解釈をしたらしい。訂正もめんどくさいし、本心を問い詰められてはあまりいい気はしない。取りあえず、本題をふっかける。
「で?何のようだ?またトラブルはお断りだぞ」
「違います。お昼誘いに来たの。」
「…断る」
「何でよ。今日はちょっと前にできたレストランに行こうと思ったんだけど」
ああ、あそこか。
奈緒が美味しかったって言ってたな。
「こないだ友達と行った時に凄く美味しかったから、八雲君にも食べてほしくて誘ったのに」
少しだけ口角があがる。
「君の奢りなら考えてやらなくもない」
「じゃあ、奢る。だから来て?」
…僕はその上目遣いに弱いんだ。
そんな目で言われたら、言うことを聞くしか無いじゃないか。ずるい奴だ。
「……仕方ない。行くぞ」
そうだ、仕方ないんだ。そう自分に言い聞かせる。
「うん!やった!」
彼女が笑った。
溜め息を吐いて、皮肉まで言ってやったのに、笑った。
胸が締め付けられるような感覚がして、息が苦しくなる。
締め付けが治まると、鼓動が速くなっていた。
なんとなく顔を見られたくなくて、前を向いて、歩き出す。
「あっ、待ってよ!」
彼女がちゃんと追いかけてくるのを耳で確認して、そのまま大学の門へと歩いていく。
後ろから彼女の不満の声が聞こえたが、無視した。
もう少し待ってくれ。まだ顔を見られたくないんだ。
彼女がようやく追いついて、隣に並ぶ頃には、速くなっていた鼓動は元に戻っていた。