静臨*長編

□不器用な優しさ
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<臨也視点>


今日もシズちゃんをからかいに池袋から来た。
もちろんシズちゃんが今日はどこの取り立てをするのか、どこを通ればシズちゃんに会えるのか想定済みだ。
その場所へ向かいながら今日はどんなことをしてやろうか考えるのも最近のひとつの楽しみになっていた。ある時はシズちゃんと同じバーテン服を着てみたり、弟の幽君のイケナイ写真をシズちゃんに送ったりと様々だ。
そういえば後ろから抱きついたこともあったな。

そんなときに見せる怒った顔や、驚いた顔を見るのが好きだった。そのあとはすごい険相で睨みつけられて殺し合いが始まるのだが。
俺には決して笑顔なんてみせない。弱みすらみつからない。
俺は高校時代からずっとシズちゃんが好きだった。でもきっと男同士なんてありえねぇ、と言われるのがオチなのは見えていた。
なら、シズちゃんの目にずっと映されるように、記憶に残るようにシズちゃんにとって『嫌いな奴』でいいのだ。
だからこそこの関係でいいのだ。





シズちゃんが通るはずの通りに来ると丁度シズちゃんの上司のトムと言う人が一人で歩いていた。
周りを見渡すが近くにシズちゃんがいる様子はない。とりあえずもしかしたら近くにはいるかもしれないから壁の影に隠れた。
様子を窺っていると携帯を取り出して会話をしていた。ここからの距離でも結構聞こえた。その中におもしろいものが聞けた。
『シズちゃんが風邪をひいた』


ありえない。


俺はその言葉が真っ先に頭の中に浮かんだ。
だって馬鹿は風邪をひくはずがない。ましてやシズちゃんは怪物だ。
その怪物に病原菌が勝つなんて―…
そしてシズちゃんの家に疑い半分、面白み半分で向かったら―――――…





と、今に至る。
シズちゃんは顔がほんのり赤く息も荒くて、あ、エロいななんて思ったりもしたけど病人に盛るほど欲を持てあましてはいない。
とりあえず新羅に薬をもらってまたシズちゃんの家に戻ってきた。


「シズちゃ―ん、死んでない?」


ベッドがある部屋へ行くと汗びっしょりになって寝苦しそうな顔だった。


「ん…ぁ、なんだてめぇかよ…」


目を覚ましたシズちゃんの目は少し焦点が合っていないように感じた。そしてダルそうに身体を起こした。


「ほら、薬持ってきてあげたんだから飲みなよ」

「あぁ…サンきゅ…」


適当にあったコップに水をいれて薬と一緒に手渡した。すると滑ってしまったのかコップが床に落ちる瞬間に反射的にそのコップを掴んだ。


「ちょ、何してんの?大丈夫?」

「あ…わり、なんかボーっとしてて」


目が据わっていて確かにどこを見ているのかよくわからない。俺が来た時よりも悪化しているっぽい。


「はぁ…、しょうがないな。あとで怒らないでね、これは治療の為だから。口少し開けて」


首をかしげながら言う通りにシズちゃんは口を開けた。
俺は薬を自分の口に入れて水を含んでシズちゃんの口に己のを押しあてた。







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