静臨*短編

□バイト始めました
1ページ/1ページ



俺、折原臨也はバイトを始めてみることにした。

理由は簡単。

ここのオーナーの弱味を握ること。
いつもなら俺に崇拝している人たちとか、ダラーズの掲示板を使って情報を仕入れているけどたまには自分が動くことも嫌いではない。

まぁ、リスクはそれなりに大きくなるけどね。
それがまたたまらない。

そのオーナーは気前はいいし、頭の切れる人らしく周囲からの信頼も厚いが、その裏で金を使い色々と揉め事も立たない人物だそうだ。

そんなオーナーが仕切るバイト先は池袋に近い、メンズファッションショップだ。
その日面接をしてすぐに承諾され、俺はそこで働くことになった。
まぁ、俺は自分でも言えるほど顔は整っているし接客には慣れている。
そこで売っている服を身につけ店頭に立てば客もだんだんと増えてきた。流石、素敵無敵な情報屋さんだよね。

休憩中に同じ店で働く店員さんたちからそのオーナーの人について少しずつ少しずつ探っていった。



まぁ、そんな大した仕事でもなかったため4日ほどであらかた情報を得ることができた。
今日の夕方にでもバイトをやめさせてもらおうと考えながら営業スマイルで対応する。
すると、いるんだ。こういうやつが。

俺のことを舐めるような目つきでバイトを始めてからいつもくる男。
スーツ姿でいかにも真面目そうな男だが。所詮、見た目で人は判断できない。
一昨日は『可愛いね』なんて言ってきたり、昨日なんてその客のすれ違い様に尻あたりを撫でられた。
絶対、この依頼が終わったら抹殺して東京湾に沈めてやる、なんて目つきで睨んでいると俺の前に大きな影ができて見上げなくても分かったその姿に冷や汗が流れた。



「い、いらっしゃいませ……静雄さん………」

「よお、ノミ蟲君。こんなとこで何してるのかなぁあ?」



現れたのは何故かシズちゃんで、青筋を額に浮かべていた。
恋人に向かってこの態度はあまりに冷たすぎる、と言いたいところだけど、俺は最近愛知の方に行っている、とシズちゃんに言っていたため会うのは避けていた。

こんなにあっさりバレルなんて俺の失態だった。いやでも、本音はこういうのに期待していたのかもしれないけれど……。

てことで、目の前の人は確実に怒っております。
逃げるか、いやこの距離からさがっても後ろにはたくさんの服が並んでいるし、店を出るにしてもシズちゃんの後ろに扉はある。
迷っているうちに周りの人たちはざわざわと騒いできた。
生憎、ナイフは今は俺の手元にない。
この緊張感。
本当に、最高に楽しかったりする俺は壊れているのか?
ま、そんなことより今はこの状況をどうするか、だ。



「おおお、落ち着こう、シズちゃん!」

「それは手前だろ」

「え、ええ?何言ってるのシズちゃん!それより、なんでここにいるの!?え、もしかして俺のことストーカーしてたりしたの?あははは、お笑いだね、もしかして俺がイケナイバイトとかしてるとか思った……むぐっ」

「うるせぇな、べらべら喋りやがって」



俺の口をシズちゃんの大きな手のひらで塞がれて変な声がでてしまった。
とりあえず、周りの人たちの目が痛い、痛すぎる。
俺はとりあえずここでは店員としてやり過ごす覚悟を決めた。
シズちゃんの腕を払って、笑顔の営業スマイルを浮かべた。



「お客様、店内では暴れないでください。商品に傷がついたら貴方様に全て弁償を請求しますし、ここにいるお客様に迷惑がかかります」

「……あぁ、そうだな」


周りの客たちは、悪い客が来ただけ、と目を違う所にむけた。
ほっと一息つくと妙に落ち着いているシズちゃんに嫌な予感がした。



「そうだ俺新しい服欲しかったからよ、なんかいいコーディネートしてくれませんか、店員さん?」

「えっ……」



俺がつまりシズちゃんに似合う服を選べと言うこと。
ここで断ればどうなるんだろうか。
思わずぶん殴られてる俺を想像をして青くなった。
俺の後をとことこ着いてくるシズちゃん、なんか可愛い。

そういえば、シズちゃんのちゃんとした私服っていうのは見たことがなかった。
高校は制服だったし、今はバーテン服だし、家じゃジャージだし……。
俺たち二人でデートなんてしてみたいけど、目立ってしょうがない。
だから家の中でまったり過ごす、それが日課だった。

カッコいいだけでなく大人っぽさも交えたコーデにしてシズちゃんに渡した。



「こんな感じでいかがでしょうか、お客様?」

「ふーん、試着室とかねぇのか?」

「何その反応……、試着室はこちらです」


店舗の隅っこに二つだけ用意されている試着室に案内して別の所に行こうとして目を伏せた瞬間腕を掴まれて試着室に俺も入ってしまった。入ってくる間際、シズちゃんは後ろのカーテンをシャッと素早く閉めた。

文句を言う間もなく壁に身体を押しつけられ、顎を上に持ち上げられると熱いキスをされた。
何度も角度を変え喰いつくようにされていると口を開けろと催促される。
でも息を止めて歯を食いしばっていたが、酸素が足りなくなりはっと口を開けた僅かな隙間にシズちゃんの舌が侵入してきた。



「はっ、んぅンんッ」



両腕が掴まれているため抵抗しようにもできないし、それどころか足に力が入らなくなってきてずるずると落ちていると俺の脚の間にシズちゃんの片足が入り込み膝の上あたりで身体を支えられながらぐりぐりとされて思考回路はぐちゃぐちゃだった。

力が入っていない俺に気付いたシズちゃんは俺の腕を解放して腰に手を回すと服をめくり撫でた。
びくりと跳ねた俺を面白そうに眺めているシズちゃんの瞳と間近で合った。
それが合図かのように口を離すと息の上がった俺はシズちゃんの服にしがみついた。



「こんなとこで、なに、すんの……」

「もう我慢の限界、4日前からここでお前がバイト始めたのは知ってた」

「え?!」

「仕事なんだろうなとは、思ってたから何も言わなかったけどよぉ、この店によく出入りするあの男。お前のこと欲情した目で見てやがってよ…。昨日何かお前に触ってたしよ…絶対に殺してやる」



待って、待て待て待て。



「え、シズちゃんずっと俺のことどっかからみてたの!?」

「あぁ」



シズちゃんがストーカーになりました。
警察を呼ぶべきか、いやここは救急車をよぶべきだろうか?

でも、それってさ……



「もしかして、もしかしなくても妬いた?」

「………。当たり前だろ、手前は俺のなんだから」

「ッ……〜〜、///」



軽くキスをしたシズちゃんから離れようとするとなぜか腰をがっちりと押さえられていた。



「あ、あのーシズちゃん?離してくれないかなぁ??」

「何言ってんだ、ヤるに決まってんだろ」

「はぁ!?ここで!?嫌だよ、馬鹿ッ、離せッ」



ジタバタと暴れて出ようとするが腰を掴まれていれば簡単に引き戻されてしまう。

後ろにいたシズちゃんから手が伸びてくると服を捲りあげられ手がするっと入ってくると突起をぎゅっとつまれた。
口から喘ぎ声だけは出さないように歯を食いしばった。
そんな俺の気も知らないで好きなように俺で遊ぶシズちゃんをぶん殴ってやりたい。いや、それじゃ甘いな、海に沈めてやる。

するりと空いていた手がするりとズボン越しから密かに勃ってきていたものを撫でた瞬間ビクビクと身体のなかが震えた。
横を向くと大きな鏡がありその中の自分と目が合う。
いつの間にか息が上がり、赤く頬を染め欲情した瞳。
そんな醜態をいつもシズちゃんの前でしゃくしていたことが分かりさっきよりも顔が熱くなった。
ベルトが取られて今度はパンツ越しからするすると撫でるような手つきで擦られた。



「っァ――…ッ」



徐々に力が入らなくなってきた腰を後ろにいるシズちゃんが支えていた。
まだ向かい合っていなくて良かったと思っていると後ろから声がかかった。



「別に後ろからでも手前が感じていることは分かるんだよ、こことかもう完勃してるしなぁ?」



(え、俺の声まさか出てた!?)



「ヒっ、あッ!」



さっきよりもパンツ越しから強く擦られて下半身がガクガク震えだした。
行き場を失った手はシズちゃんの腕を強く掴んでその刺激に耐えていた。
すると―――…



「すいませーん、ここ、使ってますかぁ?」



まだ幼いような声が薄いカーテン越しから聞こえた。
どうやら、俺たちのことらしい。
確かに今はどちらも土足で外には靴がない。
隣はさっきカーテンを閉める音がしたからたぶんまだ使っているのだろう。

声がかけられた瞬間心臓が飛び跳ねた。
今もドクドクと鳴り続けていた。
ここで返事を返さないと、開けられる、もしくはこんなことをしているのが声で分かってしまう。
そんな俺が焦っている中シズちゃんは何事もなかったかのように擦り出した。
再びさめた熱が熱くなってきて後ろのシズちゃんを思いきり睨むとにやにやと笑う変態野郎、変態島がいた。
すると耳元で聞こえないくらいの声で話しかけてきた。



「ほら、返事しねぇと開けられるぞ?」

「む、りッ!んぅ…離せよ」

「俺は別にいいんだぜ?これでお前に集る蟲も減るしな」



とんでもないことを言うシズちゃんを殴ってこの場から立ち去りたいところだけどもう俺には抵抗なんて無意味だった。



「誰もいないんじゃねぇの?」

「えー?でもガタガタ音してるし」

「大丈夫だって!隣だろ?」



少年は二人いるらしい。
コツコツと店のbgmと足音が少しずつ近づいてきた。
カーテンに手がかかったところで、



「つ…使って、ますッ」



そう言うと「あ、すいあせん」といって少年たちは一旦立ち去ったようだった。

俺は今まで溜まってきた怒りで足を後ろに思いっきり蹴った。
するとバランスが崩れたシズちゃんが少しよろめいたところの隙をついて試着室から飛び出た。



「シズちゃんサイテ――――!!大っ嫌い!!!」



言い捨てるとそのまま走りながら乱れていた服装を直して店を飛び出した。
本当はなんだか久しぶりにシズちゃんに会えて、触れてもらえて嬉しかったことに気づくことはできなかったけど。









〜静雄side〜

飛び出していった臨也をみて少し、いや結構悪ノリしすぎたなと反省した。
でも、あんなに誘う臨也が悪い。
あのエロイ声と赤く染まった顔を見せた臨也が悪い。



「後で謝んないとな……当分、許してもらえないかもだけど―――、その前にっ」



よっ、と試着室の上の部分を掴むとその脚力と腕力をいかして隣の試着室に着地した。
そこにはビデオカメラを持った臨也をストーカーしていた男がいた。
男はびくっと身体を震わせるとそのカメラを大事そうに隠した。



「な、なんだ君はっ!」

「手前なんかに名のる名なんてねぇよ。それよりそのカメラを渡せ」

「なっ!?」



男に詰めより手を差し出してそこに置くように促した。
この男はたぶん俺と臨也が一緒に試着室に入ったところをみていたんだろう。
おかしいと思い隣から聞いてたら声でわかったんだろう。
ちらりとさっき上を見たらカメラが見えたし。
調子に乗りやがって、



「嫌だ!!」

「おっさん、さっさと渡さねぇと―――」



壁を思い切り殴ると丸い穴がぽっかりと試着室の壁をやぶり、コンクリートの壁までめり込んでいた。
その力をみて男はその場に崩れ落ちた。
その手から投げ出されたカメラを奪い取り片手で粉々にしてメモリーも靴でぐしゃりと潰した。



「いいか、おっさん。臨也に次手出したら殺すからな」

「い、あ、ぁ…」

「聞いてんのかよぉぉぉぉおおおおおお!!」



結局そのおっさんも殴り飛ばしてすっきりしたので臨也の後を追いかけて試着室を出た。

本当はあいつは臨也がバイトをする前からストーカー紛いの行為をしているのに気づいたからここ数週間臨也を見張ってた。
もっと早くに殴り飛ばすべきだったと思いながら、俺がどんだけ臨也を守りたいか分かった気がした。
まぁ臨也は俺までストーカー扱いしてたけど、あいつが無事ならそんなのどうだっていいか。











許してもらうのに二か月かかったのはまた別の話。











[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ