静臨*長編

□覚悟しろよ?
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『ピピッ』という機械音のアラームの音で俺は起きた。

いつもと同じ朝――――…






の、はずだった。






起き上がり伸びをして立った。するといつもより服が大きい感じがした。
目線も何だか低い気がする。
久しぶりに寝過ぎて頭が回らないのかもしれない、そう思った。

そうして洗面台に行って顔を洗おうとしてようやく気付いた。



「はっ……?な、ななな、なんでっ…!?」


取りついていた鏡を食い入るように見た。
そこには少し髪が伸びて背が縮んでいて、む、胸があって……
あそこがない。


「なっ…なみえぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!」


ドタドタと走り波江のいるであろういつもの部屋に行った。


「何よ朝から。うるさいから、少し黙っててくれない?」


後ろ姿を俺に向け黙々と本や書類を片づけ、俺に冷たい言葉を言い放った。
でもそんなものを怖いとは思ったこと――…あったかもしれない。


「いや、そんなこと言ってられないんだって!」

「うるさいわね…ていうか、貴方風邪でもひいたんじゃない?声がいつもより高いわよ?」

「だーかーら…って、本当だ、声まで高くなっちゃってるじゃん!?………じゃなくて!君の給料にも関わってくる話なんだよ!」

「なんですって…」


そこでやっとこちらに波江が振り向いた。
そしてしばしの沈黙が続いた。
波江は何も言わず俺の胸に手をあてた。


「…Cカップってとこかしら」

「うわぁぁあ゛!最悪だぁあっ、もう俺仕事なんてこんな姿じゃできないじゃん!て言うか何でこんな姿になった訳!?」

「原因があるとすればこれじゃないかしら?」


波江が指さしたのは昨日もらった薬だった。
最近、不眠症のような感じだったので昨日たまたま新羅の親父、森厳からもらった薬を昨日早速使ってみた。

確かに考えてみるとあいつならやりかねないことだなと思い肩を落とした。


「はぁあ、油断してた訳じゃないんだけどなぁ…」

「とにかく今はしょうがないんだから我慢しなさい。森厳には私から聞いといてあげるから」

「助かる、ありがとう…それでさ、あの、服…貸してもらえないかな?これじゃダボダボでさ」

「そうね、本当は嫌…といいたいところだけど貴方に貸しを作っておくのも悪くないわね」

「ははは…」


波江用に一応ある部屋へ入ったのを見送るとソファに寝転がった。


「ははっ…これじゃ、人前にもでれないな…、ん?いや、逆に誰も気づかないかもなー」


いろんな考えを巡らせていると波江が服を持って帰ってきた。


「はい、これ。一応貴方好みの黒いものばかりにしておいてあげたから、文句なんて言わないでよね」

「さっすが俺の秘書〜、俺の好みを良く分かってるねぇ」


渡されたのを持ってまた自分の寝室に戻った。


「うわっ…ご丁寧に下着まで…」


さっきはよく見なかったが、下着は黒だがフリフリで少し大きめのリボンがついているのが特徴的なものだった。


「頑張れ俺…っ」


なるべく自分の身体でも見ないようにしてなんとか着替えた。
上は黒で肩だしのもので、下はミニスカで少しかがめばたぶん見えるくらいだろう。



「波江の奴…いったいどんな趣味してんだよ」



また今日何度目か分からないため息をついた。
そしてとりあえず髪も手櫛でとかして鏡でみた。



「結構分からないなぁ、全然別人って感じ」



部屋から出ると波江はまた作業を続けていた。



「…君の趣味を疑ってもいいのかな?」

「あら、気に入らなかったのなら全裸で東京中を走り回ってきなさい」

「遠慮させてもらうよ、それにしても下短すぎじゃない?」

「それが女子の普通なのよ、森厳にさっきメール打っておいたわ。あとは連絡待ちね」



やっぱりそんなことは言うがいつもはこんな格好しないから股下がスースーして変な感じがする。



「それに似合ってるんだからいいんじゃない?あ、返事がきたわ」

「早くない!?どんな脅迫文を…」

「何か言った?」

「空耳だと思う」



何度か捜査をして画面を俺に見せた。




『いや、ただの気まぐれさ!たまにはいいと思ってだね。あぁ効力は1日くらいだろう。これで全部教えた!だから私の―――…』




そこまで読んで波江は画面を閉じた。



「ですって。良かったわね」

「うん、まぁ…」



波江がどんなメールをしたのか少し冷や汗を流しながら苦笑した。



「一日か〜…ちょっと出てくるよ」

「そんな格好で?」

「こんな時だからこそだよ!どれだけの人が俺に気付いてくれるかを実験するんだよ。まぁ、シズちゃんの場合はなるべく最後かな?」



そう笑いながら自宅をあとにして池袋へ向かった。
後で後悔することを知らずに―――







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