静臨*長編
□不器用な優しさ
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とにかく今日は朝から寒気がする。
俺の部屋に体温計などというものは存在しない。とりあえず今日は仕事を休もうと思い携帯を開きトムさんの電話帳を探す。
『え?静雄体調悪いんか、珍しいこともあるんだな』
「はぃ、何かすいません。一応体調管理とかしてたんですけど…」
『まぁいいさ。静雄にはいつも働いてもらってるし、しっかり休めよ』
つくづく良い上司を持ったなと思いながら携帯を閉じて畳の上に放り投げた。
寒気はするが汗がどんどん出てきてとりあえず着替えるためにクローゼットを開けた。
そこには弟の幽からもらったバーテン服ばかりが並んでいた。その奥の方にジャージがありそれを取り出して着替えてまた布団に入った。
そのまま目を閉じるとすぐに夢の中に沈んでいった。
そこで『ピンポーン』と部屋のチャイムが鳴り目を覚ました。
こんな時に正直出ていくのは面倒だった。無視しようと思いまた目を閉じると、昨日しめたまま開けてないはずの扉の鍵が『カチャリ』と開く音がした。
おいおい、まさか泥棒かよ!?
でもそんな予想は外れ入ってきたのは、
「あははっ、本当にシズちゃん風邪ひいたんだ。馬鹿は風邪をひかないってのはよく言ったものだね」
黒いコートを身に纏った臨也だった。
「けほっ…てめぇ何しに来た?てか、どうやって部屋のカギ……」
「えぇ?もちろんシズちゃんの看病に来てあげたんだよー、ちなみに鍵は前に勝手に合鍵作ったんだよー、気付かなかったでしょ?」
ニコリと笑ってはいるがその行動は些かどうなのだろうか…。
一度俺は起きかけた身体を戻した。怒る気力すらなく今なら簡単に臨也に殺されることを覚悟した。
だが、いつもみたいに殺意が感じられなかった。
「はぁー…、悪いが今日はてめぇの相手なんかできねぇよ。…殺したいなら殺せばいい」
「だーかーら!今日は看病しに来たって言ってんじゃん!こんな弱ってるシズちゃん殺したって意味ないじゃんか」
ありえない。
いつもの臨也が弱っている俺を看病するなんて……。殺すなら今が絶好のチャンスなのに…。
また何かを企んでるのか?
臨也の行動に目を離さないでいると、臨也はコンビニにでも行ってきたのか片手にビニール袋がありごそごそと探り中から体温計を取りだした。
「どうせシズちゃんのことだし体温計なんてないんでしょ?ほらっ」
ポイっと投げた体温計を拾い上げまだ新しい体温計を使った。
無音の部屋に『ピピッ』と機械音が響いた。
「何℃?」
「…文字がかすれて読めねぇ…」
「ほら貸して……って38℃!?」
臨也は落ちていたタオルを拾い上げ水道に行き濡らして俺の額に置いた。
「俺、新羅の所行って薬もらってくるから。コンビニのでいいかなって思ったけど、よく考えたらシズちゃんにはそんな薬じゃ効かないかもしれないし」
いつも以上に優しくて夢みたいだ。
あれ夢なのか……?
俺は臨也が高校時代から好きだった。あいつに何度嫌がらせをされても殺し合いをしても口では言えるが嫌いにはなれなかった。
じゃあ今のこの状況は俺の幻想なのかもしれない。
「ほら、おとなしく寝ててね」
頭の上にポンっと臨也の手が置かれるのが分かった。
それが合図みたいにまた目を閉じた。
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