日常生活

□しっと
1ページ/1ページ

※漫画・映画「愛の言霊」ネタ。






部活動が終わって、レギュラーメンバーがそれぞれ着替え始めた頃。一氏はニヤついた表情で、白石に声をかけた。

「そういや白石ィ、昨日の昼見てたで〜?」
「ん?」
「惚けてもあかん! 2年のマドンナに告られとったやろ!?」
「…、ぁー。それか。」

ぴく、とシャツに腕を通している反対の手が一瞬止まった謙也。そんな様子に誰も気付かない。

「白石みたいにモテる男はえぇな。羨ましい限りやわ。」
「まっ、結局いつもの通り拒否っとったけどな!」
「なんや、ずっと見とったんかい。声かけぇや。」
「ホンマ嫌味なやっちゃの〜。まぁ俺は? 小春っちゅー愛しい愛しいハニーがおるから気にならへんけどな! な〜ぁ小春ぅ♡」
「ついさっき財前追いかけてったで?」
「くぉらぁぁ!浮気かぁぁぁぁ!!」
「…賑やかやなぁ。」

そうして皆着替え終わり、一人また一人と部室を後にしていく。そして、部誌を書き進める白石。そこに…、

「………。」
「お〜い。」
「………。」
「書きにくいんやけど〜?」

後ろから両肩を謙也に抱きしめられて苦笑するも、振り解こうとはしない。背中に額を擦り付けられ、小さく呻く謙也。

「なんで言わへんねん…。」
「言ったやんか。呼び出し、て。」
「そこ違う!」
「?」

そこで謙也の声がいつもとは違う、どこか不安そうな音が含まれているのに気付いた。書く手を止めずに、抱きしめてくる手に手を重ねる。

「マドンナ言うたら…美術部におるごっさ美人な子やん。」
「あぁ、そうみたいやな。」
「理想の美男美女カップルなんて、言われとるんやで…。白石と付き合うとるんは俺やけど、ホンマにあん子が白石に告ったんやて聞いたら…、オモロない。」

白石は思わず小さく笑ってしまう。その反応に謙也は抱きしめるのを止めて、白石の前まで移動した。

「笑いなや!」
「いや、すまん。珍しいな思て。」
「何がや。」
「しっと?」

そう言われて、口を噤む謙也。また笑われて、早く書き終らせろと目線で訴える。

「なぁ謙也。しっと、て漢字分かるか?」

急な質問に面食らい、ふるふると首を横に振る。すると、白石は部誌の余白の部分に「嫉妬」と書いた。

「あ〜、少し前に習ったか?」
「せや。…不思議やと思てな。」
「なにがや?」
「なんで女偏なんやろって。…男やて、しっとすんのに。」

それを聞いて謙也も、せやな、と呟く。互いに目を合わせて、…どちらからともなく唇を重ねた。



end.
次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ