聖典 221B
□tedious
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苛々と部屋を歩き回る音が朝から常にしていた。
カツカツカツカツカツ。
「退屈だ、退屈過ぎる!英国中の犯罪者達は一体どうしたんだ!」
「………………」
ソファに体を預けているワトスンは読んでいる新聞傍らから不安気に、ぶつぶつと呟きながら歩き回る青年の様子を伺っていた。
苛々と部屋を歩き回る青年……シャーロック・ホームズはワトスンを見ることなく口を開いた。
「……言いたいことがあるならはっきり言ってくれないか、ワトスン!」
そんな新聞を読む振りをして僕を見ていても何も変わらないよ!
と言われ、彼の相棒は肩を竦めた。
「何故―――」
「先程から新聞を捲っていない」
「君は一度も―――」
「音からしても、君は10分前から新聞を捲っていない。そしてその君が読んでいるであろう「TIMES」の5ページに君が興味を引きそうな記事はなかった」
矢継ぎ早に言われて、ワトスンは感嘆した。
「よく分かったな!」
「……僕の前にはよく磨かれた銀のポットがある。それまであるのに君の行動が分からなければ探偵失格だよ」
前にもこんなことがなかったかい?
ホームズは皮肉な笑みを浮かべると、ワトスンと向かい合うように椅子に座る。
「で、ワトスン。君は僕に何を言いたいんだい?」
ワトスンは躊躇したように、ホームズから目を逸らした。
「ワトスン」
「いや……その……」
「頼むからはっきり言ってくれ!」
曖昧なワトスンの態度にしびれを切らせた探偵が怒鳴った。
息を短く吐くと、ワトスンは新聞を畳み困った表情で口を開く。
「君のバイオリンを聴きたいんだ」
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