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□2.もう直らない壊れものの話
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真綿より両手で。
(もう直らない壊れもののお話)
「ころしてくれ。」
ひどい、非道い、酷い。
悪夢を見た。
覚えているのは、両手を首にかけた感覚。
相手はそう、私だった。
今よりもっと狩魔の色に染まっていた、犯罪を徹底的に憎み、完璧を重んじる「御剣怜侍」がそこにいた。
「ころしてくれ。」
昔の『私』はもう一度繰り返した。
その声は落ち着いているようにも、懇願しているようにも聞こえた。
我ながら気味が悪い。
私は、何故だと問うた。
「私は完璧ではなくなった。いや、今までも完璧ではなかったのかもしれない。私は私が分からない。検事・御剣怜侍は何を成し遂げた?何のために検事になったのだ?検事とは何なのだ?」
『私』は矢継ぎ早にまくしたてるように私に話した。
その瞳が心なしか揺れている。
それは、自分が乗り越えたとおもっていた『自分』だった。
「検事・御剣怜侍は死を選ぶ」という書き置きを残し、異国で自分自身を律して、『狩魔豪の弟子としての自分』を捨てたつもりだった。
しかし、『自分』はまだ死んではいなかったのだろう。
その証拠に『自分』は目の前にいるのだから。
「君は…生きていたのだな、私の中に。」
私がそう言うと、『私』はフ、と小さく笑い、右腕を左腕でかかえこむ仕草をした。
「どんなに現実で貴様が私を殺しても、貴様の検事という職の根源に『狩魔』があるのだから仕方がない。私は完璧には死なん。」
「…私はもう、『狩魔の掟』に縛られるつもりはないとしても、か?」
「愚問だな。どんなに自分を変えようとしても、根源から全てひっくり返すことはできまい。貴様は『検事』として狩魔から学んだことを全て捨てて裁判をできると思うか?」
「…………。」
なるほど、我ながらあざとい答え方をしてきた。
私が黙っていると、『私』はやれやれと小さく息を吐いた後、話を続けた。