相棒小説

□口をついて出た言葉
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何か甘いものが食べたい。
今すぐに。
とはいえ、ここが職場で。
お菓子の詰まった冷蔵庫なんてもちろん存在せず、今すぐにでも甘いものを摂取出来るとすれば、自販機の飲み物くらい。
軽い目眩を覚える。

時々こうして無性に甘いものが食べたくなる。
それはきっと、自分がそうとう疲れているときなのだ。
体とかではなく、脳が糖分を欲しているのだ。
そう解釈しているため、こういう時の欲には逆らわないようにしているのだが。

甘いもの。とりわけスイーツ的なものが食べたい。
いっそ甘過ぎてちょっと胃もたれするくらいの。
この欲望を叶える為にコンビニに行く時間はもう残されていない。
お昼ご飯を食べ終わって唐突に甘いものが食べたくなるなんて、想定外だった。


まだ、帰ってきてない先輩に頼んでみようか。
面倒見のいい先輩のことだ。
きっと、文句を言いつつ買ってきてくれるんだろうな。


ぼんやりと携帯電話に手を伸ばした瞬間、先輩が戻って来たのが目に入った。


うぅ。最悪だ。
もう、ダメだ。
午後の勤務に支障が出たらどうしよう。


机に突っ伏して、なんだか泣きそうになりながら、ぼんやりと目の前のカレンダーを見つめる。




突如、ガサリと頭の上で音がした。




「藤沢、土産だ。やる。」




「へ?」




先輩の声が上からして、慌てて頭上に手をやると、少しひんやりとした袋に触れる。
中を見れば、シュークリームが一つ。




「……うぅ……先輩、なんで。」




今度は違う意味で泣きそうになりながら頭上の先輩を見つめれば、何故か凄い勢いで顔を逸らされた。




「要らねぇのかよ。」




視線も合わせないでぶっきらぼうに言い放つ先輩のその行動が、ただの照れ隠しであるというのはもう分かっている。
きっと、私の為に買ってきてくれたんだ。
そう思うと胸の辺りに込み上げるものがあって、なんだか気温が二、三度上昇したように感じる。




「えへへ、要ります、要りますっ。
ちょうど甘いものが欲しかったんです。」




ちょっと前まで泣きそうになってたのが恥ずかしくて、照れ笑いでごまかす。




「おぅ、そりゃ良かった。」




相変わらずこっちは見てくれないけれど、先輩の表情が和らいだのが見えた。



あぁ、もう。




「伊丹先輩、大好きです。」




「なっ?!」




口をついて出た言葉
(ちょっとミカゲちゃん、先輩をノックアウトしないで!)
(へ?ノックアウト?)




16/04/18 弥唯

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