*小説*

□ある寂しい時には
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暗闇だが目の前は見える


ただただ歩く。


雨の降る予兆だろうか。
森が湿っている


暫く森をさ迷っていると
突然刀を持たされた

なぜ……

と思った束の間、

人を刺した強い衝撃が手に、
腕に伝わった
この感触はよく覚えている


「…朽木…」


忘れたくても
身体が忘れるのを尽く拒否した

「っ!!」


自ら貫いたその人物は


「海燕殿…!」












目が覚めた

どうやらまた夢だったようである


視界の端では
白哉が控え目に明かりをともしながら
書物を読んでいた


「兄様…」

先程までのまでの冷や汗や
どうしようもない悲しさが
嘘のように消え去る


「何故こちらに…?」

「屋敷の者から最近ルキアがうなされていると聞いたのでな。」


心配してわざわざ来て下さったのか


「ありがとうございます。私は大丈夫ですので兄様は自室にお戻りになって下さい」


本当はもう少し此処に居て欲しいけれど
兄様は隊長という激務だし
疲れていらっしゃるだろう。

これ以上私の為に時間を
割いて頂くのは申し訳ない


「この時間はいつも読書をしている。何処で読もうと大差無い。」

そう言って
ぺらりとゆっくり紙をめくる。


兄様が自分を気遣って下さった

それがこの上なく嬉しかった

もっと近くに来てくれたらと
思うのは我が儘だよな
早く眠って兄様に安心してもらはなければ


布団に潜り目をつむる


冷たい手の平が
大きな暖かさに包まれた



「…兄様…」

「…緋真が病で眠れぬ時よくこうして手を握ったものだ」


顔が向こうを向いているのと
暗闇であるせいで表情が伺えないが
声色はとても優しい


ふいにじんわりと涙が滲んだ


ここで泣いてしまっては
また兄様が心配される。

目を覆うふりをして
涙を拭く


「私はいつもルキアの傍に居る。」


兄様は私の心を読むのがお上手だ。


今夜はよく眠れそうである。










END



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