妄想 歴史好きの僕

□プロローグ
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「おはようございます!」

パシッ!

「いて!」

?「こら!教育係がギリギリに出社してどうすんの?もう新入社員は全員揃ってるよ」

(今日も橋本先輩はクールだなぁ)

橋本さんは、僕が1年目の時からの先輩で大変お世話になっている人だ。

?「九島君また怒られてる!」

ケタケタと笑い声をあげているのは、入社2年目の生田絵梨花。

(生田は後輩の癖に俺のことを君付けだからな・・・日に日に舐められてる・・・まぁいいけど)

「すみません、ちょっとトイレ行ってきます」

橋本「え?もう始まるよ」

一瞬 ? となったが、思い出した。僕が新入社員の前で先輩代表挨拶をするなんて話になってた。

先週の木曜日、やけに笑顔の橋本さんから、宣告された時のことを今思い出した。

「あ、新入社員の前で挨拶みたいなのするんでしたっけ」

一層橋本先輩の顔が険しくなる。本日も橋本山は峻険なり。

橋本「れっきとした挨拶だっつーの。早くしてね」

(トイレに行ったまま挨拶バックレようかな)

橋本「挨拶は絶対やってもらうから」

背筋が凍った。いつもこの人は僕の心を読む。


「そんなわけないじゃないですかぁ〜〜〜」

凍てつくような視線から早く逃れたくて、その場を後にした。


漏れる漏れる・・・・・・


若干急ぎ足で向かっていたら、曲がり角で人とぶつかった。


ドン!


「痛っ!」

?「わっ!す、すみません!」

見知らぬ顔の女性。もしかして新入社員なのかな。

「こちらこそすみません。大丈夫でした?」

?「は、はい!申し訳ありません!」

緊張してるな。そりゃあそうか・・・・・・

よしここはあのエピソードで、この子の緊張をほぐすしかない!!

「知ってますか?」

?「え?」

「独眼竜で有名な伊達政宗にこんな逸話があるんです。家臣に家宝の茶碗を見せようとした時に、危なくその茶碗を落としそうになりまして。政宗も家臣も焦ったそうです。そりゃそうですよね。で、落としはしなかったんですけど、政宗はみるみる顔色を変えてその家宝の茶碗を急に叩き割ったんです。なんでだと思います?」

「え、えっと」

「こう言ったそうです。"自分はたくさん戦をしてきたけど、どんな奇襲にも驚いたことはなかった。なのに今茶碗を割りそうになったぐらいで驚いてしまっている。それが悔しい"と。驚いた自分が悔しくて茶碗を割ったっていうのは、面白いですよね」

女の子はポカーンとしている。

まずい、またやってしまった。橋本さんに怒られる。

いつのまにか、尿意も忘れてオロオロしてしまい、どうしようと考えていたらその女の子はクスッと笑った。

「歴史がお好きなんですね。私、金村美玖と言います」

その瞬間、春の気持ちいい風が体を通り抜けた気がした。

この出会いをきっかけに僕の周りが急速に変化していくことになるなんて、この時はまだ何も知らなかった。

知っといたらあんなことにならなかったのに・・・・・・
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