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□かわいい恋
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 「いいなぁ、ナミは」

ふてくされながらあげた顔は砂まみれ。
ナミはかがんで頬から砂をはたいてやった。

「そんな顔してんじゃないわよ、未来の海賊王さん」

「おれも海で遊びてぇんだよ」

「どうぞ、止めないわよ。死にたきゃね。」

「……おまえ性格悪いなぁ」

「変態だ!」

「お黙り、チョッパー」

ルフィの隣でこちらもやっぱりつまらなそうにしていたチョッパーが、ナミの静かな声にびくりと後ずさる。

更にその隣には、どこにいても変わらずのスタイルで本を読んでいるロビン。

それでも心なしか、水をしたたらせるナミや離れてても聞こえる仲間たちの声に眩しそうだった。

「適度に休憩をね、ナミちゃん。ほかのみんなにも伝えてくれる?」

「はーい」

返事とともに立ち上がり、膝の砂をはらう。

ルフィが見上げると、太陽はちょうどナミの頭のうしろ。
よく見えない顔の代わりに、声がすごく胸に響いた。

「でも、私はうらやましいわ」

悪魔の実の能力者3人、そろって首を傾げてお互いの顔を見た。

「嫌われたって言うより、めちゃめちゃ愛されてるっぽくて」

「なんの話してんだ、おまえ?」

身を起こしてナミの顔を見ようとする。
光で消える頬の輪郭。目を細めた視線の先で、ナミは風を感じて瞼を閉じていた。

「私はこんなに好きなのに、もうずっと片想いだもん。
 でもあんたたちは、ちょっと触れればすぐに手を引いてもらえるじゃない。
 だからなんかうらやましいなぁ、って。」

潮の香りにのって聞こえる仲間たちの声。振り返れば波のまにまに笑顔が揺れる。

「あーあー、もう何やってんのかしら、あいつら。」

「ナミ」

「ん?」

もう一度振り返るナミの腕を引いて、ルフィがにやりと笑う。

「おまえは海にはやらねぇよ」

「はぁ? あんたなに言って、」

「おまえはおれの航海士だ」

少年のあけすけな独占欲に少女は面白がって笑った。

目元に濃い夏色の影を落とす麦わら帽子を押し上げて、額に額を押し付ける。
冷えた肌の奥の熱をお互いに感じながら、目を見てもう一度笑う。

「早く私を“海賊王の女”にしてよね、キャプテン」

ししし、と忍んだ笑い声にかぶせて、チョッパーが小さく呟いた。

「おれ、なんの話か全然分かんなかった……。」

「途中でずいぶん本題とはズレたから、いいんじゃないかしら」

ルフィでも分かったみたいなのに……と尚も落ち込んでいるチョッパーを横目に、ロビンが溜息つきつつ本を閉じる。
本どころでは無くなった。

なんてかわいい恋をしているのだろう。みんなみんな。


片想いだと彼女は笑うけど、間違いようもない愛しさに満ちた風が、海から吹いてオレンジの髪を揺らしていた。





※※※※※※※※
ロビン→ルナミ→海(→ナミ)

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