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□笑ってニコちゃん
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 「ねぇねぇ、ニコちゃん、笑って」

アルコールが回ってハイになった航海士は、たまにロビンの頭を痛ませるようなことを言う。

「はいはい、これでいいかしら?」

ぞんざいに返して口の端で作り笑顔。それも本から一向に視線はあげないままで。
しかしながら、酔っぱらいはそれでも満足したようだった。

「かわいいねー、ニコちゃん」

「ありがとう。あなたもかわいいわよ」

あくまで適当にあしらってる風を装って。だが残念なことに本心だった。
赤らむ頬も、間延びした声も、人肌を恋しがる子猫みたいな仕草も温度も何もかも。
かわいくて仕方無い。
遠くから見てたっていつもそう思うのだ。この至近距離で顔なんて絶対見れない。
手を出さないでいられる自信がない。

「ロビン」

ふ、と。しらふみたいな声でいつもの呼び名。
ニコちゃんはもういいの?
新しい遊びを仕掛けておいて、随分あっさりしたものだと訝しみながら顔をあげる。

「ニコ・ロビン」

「今度はなぁに?」

隣に膝をついた少女は、見てみれば真顔で、珍しく低い声。
それだけのことにも少し動揺して、どきりと胸が高鳴る。

「……8000万ベリーかぁ」

じっと顔を見つめ、やっとででた言葉はそれ。
思わず同じくらい真顔で見詰め返していたロビンはそのままの表情で。

「……売り飛ばさないでね」

酔っ払いはその言葉に大笑いして、宴の席に戻っていった。
残されたロビンは、まだ少し速いままの心音を持て余して、星空を睨み据える。
背後の扉を開けて追加の料理を持ってやってきたコックにも振り返らない。

「あれ、ロビンちゃん。飲まないの?」

「……飲みすぎたわ」

呼び名、声、表情や仕草、手変え品変え自分を酔わす、ナミと言うアルコール。

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