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□陸酔い
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 久しぶりにあがったおかはひどく不安定に感じて、そんなはずもないのに足元が揺れていた。
おぼつかなくてふらつけば、隣から長い腕が伸びてくる。

「大丈夫?」

「うん。陸酔いかな。」

穏やかな力強さと笑顔で受け止められてほっと一息。

「陸の脈動は読めないのね」

からかうでもなく、無邪気に不思議がるロビンをナミが笑う。
ありがとうと言ってそっと腕から離れ、確かめるように一歩を踏み出した。
一歩踏むごとに、固い力が足の裏から跳ね返ってくる。
駆け抜けていった仲間たちの背中はもう見えない。

「自由があれば、潮風の届かないところまでは行かないでしょう、いつも」

ゆっくり歩くナミに倣っていたロビンが不意に言う。
よく見てることだとナミは無言だけで返した。
歩いていく。土は固く柔らかく、揺るぎなくて落ち着かない。

「怖いの?」

ときどき、ロビンが無邪気すぎてナミは驚くことがある。
まともな人付き合いをしたことがないそうだから、仕方無いのかもしれないけれど。
ゼロ地点からの攻撃をいとも容易く放ち、素っ頓狂な顔をしていたりする。
だから責め返すわけにもいかなくてナミは、やっぱり真っ直ぐ返すしかない。

「こわいよ。」

言った瞬間眩暈がして、膝が回ったようにまたふらついた。
今度もロビンは手を差し出しかけて、でもそのまま止まってしまった。
支えもなく崩れた体は地面に落ちて、ぺたりと座りこんだナミがロビンを見上げる。

「助けてくれないんだ」

「どうしてかしら、今、そんな気分になれなかった」

悪びれた様子もなく、あくまで研究者体質のロビンは自分の行動の根拠を模索している顔。

「ひとりで立てないあなたが、見てみたかったのかも」

「え、なに言ってんのこの悪魔の子」

あんまりと言えばあんまりな結論に、ナミは目を丸くした。
それを見てロビンは大笑い。ナミはますます目を丸くする。

「ごめんなさいね」

今更手を差し出して、ナミを立たせてやる。
ふらつきながらもその手を取って立ち上がるナミに、また軽い目眩。

「海を感じてるときのあなたの自信に満ちた目が好き」

ナミの揺れごと感じ取るかのように、ロビンの腕はきつく絡みついた。

「でも、打ちあげられた魚みたいなその不安そうな目も魅力的よ」

ロビンは子供みたいに笑った。

「えーちょっと、ほんとこわいこのひと」

くすくす笑いながらロビンにぎゅっとしがみつく。
ロビンの落ち着いた心音を聞いて、揺れが次第に収まっていく。
ナミはゆっくり息を繋いだ。長い指先に掬い上げられた魚みたい。

「もう海に返さずに、陸(おか)で飼えたらいいのに」

「水槽に入れて?」

「眺めて暮らすの」

「そういうの、幸せ?」

「どうかしら、あなたが幸せならそれでもいいかも」

「私、海がいい」

「じゃあ、海に返すわ」

「そんな言い方しないで。海で私を愛してよ。ちゃんと。」

「ちゃんと?」

「ちゃんとよ」

謎掛けするように曖昧な言葉を投げ合って、答えは尋ねずに笑い合う。
体を離して背伸びしながら口付ければ、またぶり返す目眩。



「ちゃんと愛してる、わ」



言葉に揺らされて、くらくら、する。

うちあげられたのはどっち?
謎掛けて、答えは尋ねない。

頭預けた胸の、かすかな揺らぎを感じれば、それがきっと答え。
あなたを救いあげて、この手で飼ってるのは私の方かもしれないよ?



※※※※※※※※
やさしいSのロビン姐さんと、
飼い慣らされてるくせに強気なナミさんでした。
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