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□猫になりたい
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 覆いかぶさっていた熱い体が隣にずりずりと落ちてくる。
枕に拡がる海色の髪。ずっと眺めていたそれを惰性で追った。
「ナミさん、ひどい」
「え、なにが?」
いきなりの文句に息を整えながら返せば、子供みたいにふてくされたビビと目が合う。
「集中してない。気持ちよくなかった?」
「そんなことないわよ、気持ちよかった。2回もいったし。」
てゆーかいかされたんだけど。
……そっか、だからしつこかったんだ。唐突に言い分を理解して素直に反省する。
「ごめん。気持ちよかったけど、集中はしてなかったかも。」
もう一度ごめんと言ったら頭を撫でられた。年下だし、かわいいとも思うんだけど、こういうところは大人だと思う。王族っていうより聖職者みたい。不実を責めずに告解を受ける。
「なにかあったの?」
「んー、昼間のこと考えてた。それ以上は言えない。」
「ミス・オールサンデーのことでしょ?」
「なんで分かったの?」
すばやい切り替えしに目を丸くすれば、返ってくる苦笑い。それを見てこっちもしまったと苦笑う。なんだかなぁ、嘘もはったりも上手くいかない。ビビの視線は真っ直ぐすぎる、なんて言い訳かしら。
「ナミさんの好みっぽいなぁと」
「ほんと?そこまで把握されてるの?てゆーかあんたとは似ても似つかないし」
「だって、別に私は好みじゃないでしょ?」
「卑屈ねー」
「言ってよ。それとも当てましょうか?ナミさん、私の髪の色が好きでしょ」
「うん、好きよ」
「海の色だから。私に抱かれてるとき、海に抱かれてるみたいだって、思ってるでしょ」
「んー」
「イエスでいいのよ。それはそれでいいの。海は大きいから。敵わないって思うから」
「ちょっと、ビビ?」
「でもあのひとは嫌、彼女はとても大きくて強くて確かに私は敵わないけど、でも同じ人間で、同じ女よ」
「ビビ、」
「比べて、しまうわ」
「ごめん、ごめんって。泣かないで」
「あんな女に恋なんてしないで」
「しないわよ。おかしいでしょ、その展開。考えすぎなのよあんたは。」
飛躍した考えに慌てながら、ビビの手をぎゅっと握る。熱を分け合うように指から指へ、安心を渡したくて力をこめた。
「恋なんかじゃないわ」
「あんな女に渡したくない」
「分かったから、ね、もう寝よ」
「私がナミさんだけを想えない分、ナミさんは私だけを想ってよ」
「……うん、想うから」
ひどいのはどっちだ。
さんざん愛を囁いて、こんなに好きにさせといて、結局あんたは国を選ぶ。絶対に私を選ばない。私も多分、あんただけを選び続けることはないけど。
ふたりでどんなに並べても、契約じみた愛の言葉。
やっぱりお互いさまかな。
「空や海を見るたびに、一番最初にあんたを思い出すから」
空にはあんたの、罪と慈悲を潜ませた瞳を思って見つめ返すわ。
海にはその波打つ髪を思ってキスを投げる。
ただ空と海にも必ず訪れる夜、青を塗り替える夜の黒に、密かにあのひとを思い出すことは許してよ。
夜の片隅と言う片隅にあの黒髪と瞳が揺れる幻を見て、風に花の匂いを感じ取る、ふるえる健気なアンテナみたいな心を見逃して。
心臓がたったひとつじゃなければ、一個は間違いなくあんたにあげるわ。
それぐらい想ってるから、少しだけ夢を見せて。

暗い暗い眼差しと一瞬だけ目が合った。低い低い声に名前を呼ばれてみたいと思ったの。



海賊だもの、夢なら見るわ。悪い?

夜の海に抱かれて、朝がくるまで眠り続ける。そんな夢を見てる。






※※※※※※※※※※※
ミス・オールサンデーに一目惚れナミさん。女の勘が働く姫。
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