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□恋の刃物
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「あ、ねぇウソップ」
八回目。
今日一日。ナミちゃんがクルーの名前を呼ぶたびその回数を数えていた。
暇だったことは前提として、興味があったのだ。
「おう、どうした?」
「こないだ借りた本、続きあるの?なんか変な終わり方だったけど。」
「あーあれな。続きは出てねぇんだよ。あれ自体今じゃ絶版だ」
「えー、なんでそんな中途半端なもの貸したのよ」
「文句言うなよ。面白かっただろ?」
「だから嫌なのよ。気になるじゃない」
「ったくしょーがねぇな。じゃあおれがあの話の続き考えてやるよ」
「なにそれ。」
なんてふてくされた顔しながらも、気にせず紡ぎ始めた彼の話に笑い出し、次第に機嫌は昇り調子。
なるほど、シェーラザードなのだ。彼は。
「仲がいいわよね、ウソップと。」
「はい?」
夜の仕事もすべて終わらせて、先にベッドに入ってた私の隣に滑り込んで来たナミちゃんはきょとんと目を丸めた。
「ウソップ?どうして?」
「今日、一番名前を呼んでたわ」
「あんた暇ねー」
呆れて笑う顔。場所を繕って、猫らしく丸まる。
催促される前に腕を伸ばしてやれば頭を乗せて、すぐに目を閉じた。
「話、終わってないわよ?」
「あ、ごめん。続きあったの?」
「ひどいわね。かわいく妬いてあげてるのに。」
「ごめんって。続き、どうぞ」
布団から腕を出して髪を撫でてくれる。
腕枕でまどろんでる子供に、大人しく子供扱いさせてる私。
「私とウソップと、なにが違うのかしら」
「はは、ロビンの口からそんなバカな台詞聞けるなんて」
髪を引きずりながら頬に触れ、ナミちゃんはもう殆ど眠りそうだった。
温かい手が力なく頬から滑り落ちていく。
「ウソップは好きよ。私たち、似てるの」
「もう寝ていいわよ。付き合わせてごめんなさい」
肩まで布団をかけて、前髪と一緒に瞼を撫でる。
瞼はそのまま下ろされたけれど、口はかろうじて開いた。
水の中のように緩慢に、ゆったり夢見るように。
「聞いてよ。ロビン、今日私が、何回あんたの名前を呼んだと思ってるの」
「2回ね、さっきと、今と。昼間は結局一回も呼んでもらえなかったわ」
「そうよ。2人っきりになるまで、迂闊に呼べないから」
「あらどうし、」
緩慢でゆったり、夢の中を泳ぐような動作のキスに、目前までなんの反応もできなかった。
唇から流れ込んでくる、深く澄んだ水色のイメージ。
澄み渡る純粋な愛情を確かに感じていた。
「名前呼んだだけで、心臓、壊れそうになるよ」
最後に殺し文句を吐いて、魚は海へ。
私はやり場のないときめきと壊れそうな心臓を左胸に押し込めた。
それでも殺し文句は深く刺さり、多分到達している。
手の施しようもない致命傷へ。