素敵小説

□とびっきり を、ずっと
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とびっきり を、ずっと


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六道骸が、異様にご機嫌だ。


「見て下さいよ、ボンゴレ!今日も空が青いです」
「…うん、そうだね」


機嫌が良すぎて気持ち悪い。
彼はこんな人だったかと疑問に思うが、答えを出す前にまた彼が話しかけてくる。
「空が青い」だとか、「アリが綺麗に並んでる」だとか。
前のこいつなら「それがどうかしましたか?僕には関係のないことだ」とか言って鼻で笑ったのに。
それが、最近違うのだ。


「雲雀恭弥も。ほら、草木が風になびいてますよ?」
「………」


雲雀さんに至ってはシカト、だ。
それはいくら何でもやりすぎではないか。あぁ、ほら。骸がすねた。
すねた骸は、足を屈めてお尻を付き、いわゆる体育座りになった。
その背中には『話しかけないでオーラ』がムンムンだ。
地面には、骸が書いたと思われる物体の数々。
本音を言うと、何が書いてあるかはわからない。感情が揺れすぎだ。


「まぁ…骸。そう気を落とすなって。ほら!またアリが砂糖運んでるのな!!!」
「そうだよ、骸。雲雀さんにシカトされたくらいで、落ち込むお前じゃないだろ?」
「おら!お前、10代目に気ィ使わせてんじゃねーよ!!まったく、世話が焼けるぜ!!」


上から、山本、俺、獄寺くん。
3人それぞれ、それなりの励ましの言葉をかけるが骸には無意味らしい。
オーラはどんどんと広がり、俺達にまで暗いそれがうつってきそうだ。
そんな中、骸の「そうですね…」という呟きが小さく、本当に小さく聞こえた。


「そうですよ…。どうせ僕がこの世から消えたって、この世は何事もなかったかのように廻るんですから」
「……は?え、なに、急に」
「雲雀恭弥が僕のことを居ないように扱い、君達がどう僕を励まそうと、この世に変化はないんです」

「えっと…う、ん。それで?」
「結局、変わるのは僕の心情だけ。そうだ、そんなの僕が一番知っていたことじゃないか」


なんだか急にシリアスな雰囲気になった気もするが、どこかいつもの骸になっている気がするから良い
としよう。
といえど、俺には彼の言っている意味が難しすぎて理解しがたいのだが。
山本も獄寺くんも雲雀さんも、骸をずっと凝視している。もちろん、俺も。
骸の周りの黒いオーラはいつの間にか消え去り、気づけば彼は代わりにニヤリという怪しい笑みを浮かべた。
だめだ、骸の思考が読めない。いや、それは元々かもしれないが。
最近になって、もっと。


「気づきましたよ、マフィア風情が…。ようやく結論が見えてきました」
「…なんの?」
「僕、実は最近ずっとどこかここら辺が苦しくて…」


そう言って骸が差すのは心臓辺り。
ついに心臓の病にでもかかったのか。そうすれば、俺はこいつに体を乗っ取られる心配がないのだけれど。
そんなことを考えながらずっと骸を見ていると、パチリと何故か目が合った。
それから、どこか頬を赤らめる。なんだよ、気色悪いな。
そして骸が「その理由が今、わかったんです」と、言葉を繋ぐ。


「僕は…目覚めてしまったようです…」
「…ゲッホ。なにに?」


俺はむせてしまいながらも、彼の言葉に応答する。
彼の表情を見た瞬間から、どこか予想はできていたんだ。
これが俺の超直感なのかもしれないが、なんでこんなにどうでもいいことに役立つのだろう。
そう思っていたら、ほら。また骸が頬を赤らめた。
その様子を見ていれば、検討はつく。あぁ、これは超直感でもなんでもないらしい。わかりやすいのにも程がある。
骸の『ここら辺』を苦しくしていたのは、好意が目覚めた所為だろうと。いったい誰に対してなのかは想像できないが。
そんな俺を見てか、骸はニコリと爽やかに微笑み、そっと口を開いた。


「僕は目覚めてしまったんです。その姿がかわいすぎて、もう夜も眠れません」
「あー…君の言いたいことは大体わかったよ。わかったら、それ以上言わなくていい」
「そんなこと言わずに。その相手が誰なのか、雲雀恭弥、貴方も気になるんでしょう?」


クフ、と。雲雀さんに向かったその微笑みは、雲雀さんの体全体に、悪寒が走る原因になる。
そんな雲雀さんの姿を見て哀れだと思うのは、きっと俺だけじゃ無いはず。


「じゃ…じゃぁ、俺が聞こうかな。その…骸の…」
「えぇ。山本武、君が気になるというのなら教えてあげましょう。いいですか、今回は特別ですよ?」



シリアスになったかと思われた雰囲気はもう骸の所為でぶち壊しだ。
そもそも、今日は骸のテンションに振り回されすぎている。こっちの身にもなってほしいと、心の中だけで呟く。
そんな骸は、山本にもクフ、と言った後、ゆっくりと自分の人差し指を俺の方へ向け…。



って、俺の方へ?


「はっ!?なに!?俺!?!?」
「嫌ですねぇ、ボンゴレ。早とちりはいけませんよ?君の隣です。君の隣に立っている…」
「………俺か?」
「そう。君、アルコバレーノです!!」


骸が指さしたのは、今までひとことも口を挿んで来なかったリボーンだった。
骸が「その柔らかそうで可愛らしいほっぺた!それを考えるだけでもう僕は!!」と言ったところで、
リボーンはとび蹴りと入れた。
さすが小柄なだけあって動きが鋭い。小柄なだけに心配なパワーも、リボーンならその必要はない。
リボーンのおかげで、顔のにやけが止まらなくなり始めていた骸は、遥かかなたへ飛んで行った。
その情景を見ながら、俺はやんわりと今までのことを整理する。
骸が今まで『ここら辺』が痛かった理由は、何かに目覚めてしまったから。
何に目覚めてしまったかって、リボーンのほっぺたが可愛いとか、触りたいとか。
要するに、ロリコン。結論を申すと、骸はただの変態、だ。
そこまで俺が頭の中で整理すると、リボーンは「行くぞ、お前ら」とだけ言って先にサクサクと歩き始めてしまう。
それに連られて山本、俺、獄寺くん。
雲雀さんは、もうひとりでどこかに行ってしまった。
あぁ、やっぱり骸は変態なんだと改めて確認し、獄寺くんを見ると思わず目を逸らしたくなるような熱い眼差しで俺を見てくる。
それから「10代目は俺がお守りします!安心して下さい!」と言ってきた。


「あ…うん。ありがとう…」
「いえ!!」


そう言う彼の笑顔は、今日の骸に匹敵するくらい明るかった。
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