れんさい

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「剣城優一…」
蹴鞠の神と同じ字だね
天馬はボールを拾って京介を見た。
だが、京介の視線は花を満開にした神籬(ヒモロギ)の下

子供が立っていた。
一生懸命上を見上げて
「おっきいさくらだー」
子供は楽しげに舞落ちる桜の花びらを追っていた。
だが、ふと天馬と京介を横目に見た。
「おにいさん?おねえさん?」

見られたと思った瞬間風を纏って姿を消したが、天馬の手から舞い上がったボールは渦を巻いた風に乗る。
「いない?」
恐ろしがる素振りもなく、強風で不自然に飛ぶぶボールをおいかけた。
ガザッ、ジザ
神籬の枝に引っ掛かるボールに落胆して暫くその場から動かなかったが、突如気合いを入れて神籬の囲いを越えた。
そのあとは簡単だ。
見たこともないほど節榑だった桜の樹は登るには最高の条件を揃えていた。
が、問題があった。
その樹齢のためかよく枝が折れる。
幸い登っているのが小さな子供であるからか軋みはするも、持ちこたえていた。
そして手がボールに触れる
「あの子落ちるよ」
天馬の不吉な先読みは的中した。

足を掛けていた枝が悲鳴を上げ折れた。
子供の体が何の抵抗も受けずに落ちていく。
だからといって助けに駆け付けるのが神ではない。
一つ一つの工程が静止画の様に思われた。

地面すれすれで子供は落ちるのを止めた。
正確には止めてもらった。
幸の神が体を滑り込ませて受けとめたのだった。
その拍子に姿を現してしまったのだが、慌てるよりも子供の存在自体に気まずさを醸し出していた。
「おにいさん?」
頷く京介はゆっくりと子供を下ろして泣いた。
「おにいさん?いたいの?いたかった?ごめんなさい」
子供が必死に京介に謝る。
京介は大丈夫、大丈夫だよと子供を抱き締めた。
抱きしめられた子供は、ふと天馬の存在に気が付いた。

「優一くん、お兄さんなら大丈夫。君が助かってよかったって泣いてるんだ」
優しく笑いながら元凶のボールを渡す。
「でも、」
「そう思うならもうやらないほうがいいよ」
「天馬!」
突然の大きな声に飛び上がる天馬。
「優一くん、」
京介は一呼吸いれ、言った。

「ヒトは嬉しい時も泣くんだよ」

ヒトと言う京介を不快に思った天馬は優一を神社の外にまるで追い出すかの様にして送り出した。


「優一さんだった。会えた」
京介が泣いた理由は当に検討がついていた。
「あんな感じだったんだ」
想像と違うや
うん。会えてよかったね
助けられてよかったね
言うなり、天馬は京介に顔を近付けた
「じゃあ思い残すことないの?」
「俺は消えない」
言い切った京介を天馬は「嘘つき」だと突き飛ばした。
「本当はここはもうなくなってしまってたんだよ」
優一が消えた時にね

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