れんさい

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桜の花びらが鼻に乗っている。
くすぐったくはないだろうが、気になるだろう花びらを長く優美な指が拾った。
「起きたか?」
目をこすってどれぐらい寝てたのか尋ねた。
「1週間だ」
通りで体の節々が痛いわけだ。
天馬はおもいっきり伸びをした。
「その間に三女の神が消えた。」
「姉妹神だもの後追いは当たり前だよ」
覚悟してた
見事に生え揃った睫毛が影を作った。

「みんな無くなっちゃうのかな」
京介が花びらを天馬の手の平に乗せる
「神籬の花だ。こいつは無くならなかった。」
「春眠暁を覚えず」
寝てただけさ
ぷっ、ハッ
「お前と同じか」
消える者も消えない者もいるのだ

満開までは行かないもののあちこち咲き始めたこの花は5月の始めまで楽しめそうである。
そこへ訃報が入った。
「輝が消えちゃったよ!!」
転がるように走って来たのは座敷わらしの信助
「キーんってなって柱出来たんだ」
僕も飛び込んでおけば
「こんなに辛くなかったのかな?」
大粒の涙が桃色の頬を汚した。
「才の神は消えないって思ってたのに」
もうどんな神でも消える可能性があるということがこの時証明された。


信助が帰って行った後、天馬は嫌な風を感じた。
「もしかしてさ、マサキも」
京介は知っていた
マサキの社がダムの水の奥底に沈み、消えたことを。
だから天馬に伝えなければならなかった。
「消えた。マサキも消えたんだ。」
「そっか」
俺が寝てる間に
天馬の伏せた目には何の感情もない。
それに気付くものは比較的身長の小さい者もだけだっただろうが、先ほど別れた為に今この場には居合わせていなかった。


テンていんテンテン
ゴムボールが跳ねて来る。
天馬の足に当って少し戻る。
止まって上になったところには名前。

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