れんさい

□8
1ページ/1ページ

次女の神と我流の神が消えたと才の神からの報告を聞いた茜は関を切ったように泣き出した。
無理もない。
次女の神が消えたのは茜にとって大きな衝撃だった。
そして我流の神が消えたことが原因であることを他の神よりもよく理解していた。
「自分から飛び込むなんて水鳥ちゃんらしいね」
ぐっと堪えて茜が発した言葉に不透明な覚悟があった

「悪夢の神の隣に居させて下さい」
これを聞いてマサキは耳を疑った
「おいおい、それはまずいだろ」
気狂いになっちまう
「大丈夫よマサキくん」
茜は今までで一番柔和な笑みでマサキを諭した。
「わかってるはずでしょ?」
それ以上誰も何も言えなかった。


「ねぇ?悪夢の神」
あなたは今何を思い出してるの?
「拓人さん消えちゃったの」
あなたも行くの?
私も連れて行って
「水鳥も消えてしまったの。こんな悲しいこと、私には耐えられたいって思っていたの。」
なのに消えも迷宮に入ることすらも無かったと泣いた。

その泣き声も金の柱の外には聞こえない。
「私も連れて行って」
茜のその言葉はいったいどこへ行ったのか。
少なくとも聞こえた神はいなかっただろう。


今日が会議の最終日だった。
それでもかまわず消えた神は数多い。
帰り道への門である鳥居は残りの神を吸い込まんと風を飲み込んでいた。
「天馬。」
ん?
しぱしぱと瞬きしてビー玉のような瞳を京介に向けた。
「また1年が始まるのか」
「帰ったらね、帰ったら始まってしまうね」
大丈夫。
きっと俺たちはいつも一緒だから

「ただいまぁ」
これから元旦を迎えて人間たちの新年が始まる。
神々は備えに忙しく働くことになる。
それは例え信仰している者が誰一人いないとしても変わりはなかった。


なんの変りばえもない春がくる
桃の節句を終えた人間はいよいよ春がくるのだと口をそろえて言う。

「灯りをつけましょぼんぼりにー」「音痴だから歌うな、桃の節句はすぎたぞ」
えー!
「次は端午の節句だ」
肩を落として桃の節句の方が数倍好きだと文句を言う天馬は、暦が5月に入ろうというのに花芽を開かない桜を見上げた。
この神社にある神籬(ヒモロギ)は立派な桜の樹である。
しかしながら今年は花芽だけ付けて一向に咲く気配を感じさせなかった。
「季節外れでもいいとおもわない?」
神籬は答えることは無いが、無言のうちに多くを語った。
天馬の髪を優しく撫でる風を起こし、待ち人がいるのだと告げる。
誰を待っているのか、天馬には想像もできなかったが、きっととても大切な人だと言うのだけは感じることができた。
「一緒に待とっか」
待ち人来るまで、さくら咲くまで

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ