れんさい

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「着いたー!」
長いトンネルを越えて、外に出た時のような感覚を覚える明るさに目を細めながら叫ぶ天馬を黙らせた。
「ほら行くぞ」
手を引いて連れて行く。
連行するとは正にこのことだと京介は思った。
「宴会場に?」
「違う!」
怒られた天馬は不貞腐れながらやっぱり挨拶だよねぇ
めんどくさいとぼやいた。

出雲大社には多くの神が祭られていて、それぞれが今年も忙しそうにしている。
それでも天馬と京介が寄っていけばすぐに、不幸の神も幸の神も息災そうで何よりと祝い酒をよこす。
そんな気の使い方が上手い神達だった。
「毎年多忙だよねぇ」
天馬は祝い酒の栓を抜き、匂いを嗅ぎながら言う。
何を今更と京介に反されれば、確かにねっと笑う。


「今年の祝い酒もいい匂い」
飲み過ぎんなよ
「毎年、二日酔いで会議に出席だなんて洒落にならねぇぞ」
毎年決まってこのセリフを言うものの、効果を上げた試しがない
「大丈夫大丈夫。京介がなんとかしてくれるでしょ?」
またかよ!
京介がため息を吐けるだけ吐いて、天馬の酒癖の悪さの解決方法を考え倦ねていると
「おー!消えてなかったか!よかったなぁ、おーし、祝杯だぁ」
頬を赤くした女の子のような外見をした神が京介と天馬に抱きついた。
桃色に包まれたそれは、悪夢の神と呼ばれる少々厄介な性格の神だった。
「俺が祝ってやるって言ってんのにぃお前ら2人でどこ行こうってんだ?ん?」
とにかく人の気など気にもせず、ずいずいと迫ってくる
天馬も勢いに負けず最初からそのつもりですと言わんばかりの顔で京介から離れた。
「俺は宴会場で、蘭丸に祝ってもらう!!」
「よしきた!」
天馬が蘭丸と盛り上がっているのをため息を吐いて少しの間様子を見ていた京介は
「俺は遠慮する。窮鬼のところに行く」
と言う。
「座敷わらしもいんだぞ?会わねぇのかぁ?」
久しく会っていない友と会いたいのは山々ではあったが、後で会うさ、というと京介は窮鬼との待ち合わせ元へ向かった。


「なんだ、不幸の神を連れては来れなかったのか」
「お前は逃げ切れたようだがな、」
出会って早々、小馬鹿にしているのかと言いたくなるような声で残念がられ、連れてこれなかったのは自分の所為ではないと京介は主張した。
「ご想像通りお前のマスターが連れてった」
「マスターねぇ、蘭丸のこと酔って呼んだらずっとかよ」
そういいながらマサキ自身は気を悪くした様子は微塵もない。

「マサキ、お前はこの先どうすんだ?」
京介の質問に「うーん」と言いながら椀に注がれた酒を一杯、地に垂らした。
枯れた地は、すっと酒を跡形もなく吸い込んでしまう
「消えるのか?」
「そうだろうねぇ」
不思議と怖くは無いんだ。
けどさ、さびしいのはあるんだよ。
「でもそれって、おかしなことだろ?」
マサキにとって消えることへ恐怖などなかった。
無から生まれた人間の思いの塊であるのだから消える時も同じだと言う。
だから寂しいなどと言うのはおかしいのだという。
ただ皆に忘れられること淋しい。それだけなのだ

「おかしなことじゃない。」
京介はマサキの髪を撫でた
「幸の神はずるいよ」
「俺も近いうち消える。ずるいことなどないだろう」
京介は知りもしなかった。
「誰もいないところで消えていく寂しさなんて」
「…すまない」
いいよぉ謝んなくて。
だって、俺が言いたかったんだよと笑う。
「それに、居なくなった方が人間からは喜ばれるんだ」
京介は口をきつく結んだ。
京介はそんなことないと言い掛けた口が腹立たしかった。

皆、貧窮することなど望まない。

ではなぜ、窮鬼は生まれたのか
窮鬼は金持ちを恨んだ人間が金持ちを陥れるために拝み続けたことで生まれた。
今、妬む者は居ても恨む者は少ない。
それなら自分が億万長者になることを望むのだ。

「天馬も同じだ。」
「京介くんはありえないだろ?」
「たぶん俺も」
絶対ないだろ?マサキの顔はおかしいと言っていた。
「俺も、各地に同じような神が増えた。立地条件が悪い神社は消えるからな」
渋い顔をして、マサキはそっかと残った酒をすすった

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