れんさい

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不幸の神が帰って来てから早数週間。
気が付けば神無月の集会も、もう目の前まで迫っていた。
そろそろ行こうと天馬は何度か京介に言ってはいたが、曖昧な返事で流されてきていた。
しかし今度の今度はと京介の元に向かった。

神籬の落葉を集めていた京介を見つけ走りよる天馬は何故だか泣いていた。
京介も草木に覆われた鳥居を見上げながら静かに泣いていた。
天馬はこの涙に凌ぎようのない恐怖を感じて立ち止まってしまう。
嫌な風が竹林を音もなく、すっと通りすぎた。

社を共にする神同士は感情をも連鎖することがある。
しかしはっきりとした対象への感情を連鎖させることは極稀であった。
それが今、神々を消し去る金の柱への恐怖だと感じることができた。
それももうすぐ消えてしまうことへ繋がっているのだろう

幸の神と不幸の神は共に先が長くは無かった。
時代と共に多くの神々が人の思いによって生み出され、忘れ去られ消えて人間になる
京介にはその時の光景がトラウマだった。

「京介!!」
ためらっていたが、結局は泣きながら抱きついて感情の連鎖を止めた。
それは感情の連鎖を止めるための天馬なりの術だった。

それまで泣いていた様子など微塵も感じさせない快活な様子で
「えっとさ、あのさ、もうすぐ集会の日になるよ」
行こうと誘った。

天馬は強引に京介の手を引っ張って神通を開く鏡の前に向かおうとして足を止めた。
「ねぇ、幸の神」
京介には何が言いたいのかわかっていた。

「神通なら1人で開けられる」
だから言わせないのだ。
怖くない?などとは。
それにと付け加えて、
「お前に毎回心配されるほどヤワじゃねぇ」
と言う。
天馬が知っている京介は恐怖から去年まで、開けなかった

それを打ち砕くように荒々しく、鏡から出てくる風を手に巻き付け床に落とした。
ふわり
お香のような臭いをさせる1人1人分程の穴が床に。
強い風の音が部屋全体に響く。

できたことへの安心か深く息を吐いた京介に天馬は感嘆の声を上げた。
「おー!去年まで俺が作ってたのに、」
「不調だっただけだ」
「ん。じゃ、行こ!」
そいっ
穴に勢いよく飛び込んで行く天馬に先に行きすぎるなと制止をかけ、自分も飛び込む。

地面というものがないかわりに香の煙の上を歩くことができるようになっている神道で楽しげにはしゃぐ天馬。
「早く!先行っちゃうよ」
カコカン、カコカン

お互いの鈴木の音が聞こえるぎりぎりまで歩くと止まって待つ。
また進む。

そんな天馬の後を追いながら京介は、自分がはしゃぎながら神道を通っていた頃に思いを馳せていた。

元々幸の神と社を共にしたのは不幸の神では無かった。
『蹴鞠の神』と呼ばれ、上流階級より親しまれていた神と社を共にしていたのだった。
そしてその神は不幸の神が移される1年前まで幸の神と共にいた。
京介が知る限り、今は信仰する者などいないのだが、かつては多くの人間が祈り願った。
蹴鞠による競技に勝てるようにと。
やはり勝てればよい待遇があり、幸を得るとされ皆得ようとした。
必然的に勝ちと幸を同時に願う者が増え、幸の神が蹴鞠の神の社に置かれ長く共に過ごした。

それが4年前の神無月の会議の日、突如消えた。
昔から信仰対象とされなくなった神が神無月に消え、金の光と共に人となることが多くあった。
が、まさかこんなにも身近な神に起こるとは皆が思いもしていない。
その時の恐怖を、多数見ることになるこの会議事態がトラウマと言っても過言ではなかった。

それでも消えるまで
「行き続けます。優一さん」
天馬に聞こえ無いような小さな声はすっと消えていった

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