れんさい

□神堕ち
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カラン、コロン、カラン、コロン
ぽっくりで歩く軽快な音が響く。
誰もが振り替えるが、それ以上に興味は示されない。
履いているのは愛嬌のある顔立ちで茶の強い癖毛頭で和服をきた…
もしこれが女でなく男でない、子供でもなく、人でもないと知る人が居たならば、注意深く見ていたかもしれない。
だが、実際そのような人は1人もいなかった。
何とも言いがたいそれは悠々と人の間をぽっくりの鈴の音を鳴らしながら歩いていく。
いくらか歩くとそれはふと立ち止まり、正面ばかりを見ていた顔を上げて微笑んだ。
「死んじゃったね」
それはそう一言呟くと先程より楽しげに音を響かせながら歩きだす。
その後ろで救急車が止まり、隊員が家の中に駆け込んだ。
そんなことはそれにしてみればさして重大なことでは無いらしく、続けざまに「大ケガだ」「指注意!」「テレビ、アウトー」といった具合に不幸だと言われるようなことをすべて当て、人気のない竹林の前で足を揃えて立ちなおした。
そして勢い良く息を吸い込むと「ただいまー!!」と入り口の無い竹林に飛び込んだ。
入った先にはとうの昔に忘れ去られた神社の鳥居と境内。
カランカランと走るそれの音に合わせ、竹林がザーと音を立て心地よい音色となった。

「ただいまぁ幸の神!」
あれ?誰もいないのかなぁと小首を傾げて社の中に入っていくそれは、突然の突風に煽られ外へと掃き出されてしまう。
「ちょっとそれひどくない!?」
不恰好な着地体勢から起き上がるとすぐさまひどいひどいと言う。
「勝手に出ていくのは止めにしろ!不幸の神!」
突如どこからとも知れぬ声が響いた。
起き上がったそれは不満そうに「思い立ったが吉日」と返すが、「天馬、お前の場合は凶日だ!」ピシャリと言い放たれてしまう
「ここ1ヶ月何処で何をしていた」
「座敷わらしんとこ行ってた。」
質問にしぶしぶ応える天馬は一呼吸も入れずに迷惑だろうと叱られる
えー迷惑じゃないよーと、それは頬を膨らませ言う
「幸の神もたまには窮鬼のとこ行きなよ」
「マサキのとこに幸せ持って行ったら迷惑だろ」
そうだけどさ、俺、神無月まで待てとか言われたら消えちゃうよ!わざとらしくへなへなと倒れて見せる。
するとどこからかも知れぬ笑い声がして、藍の髪を持ち、人の姿をした幸の神が社に上がる階段の上に姿を現す。
「相変わらず酷い演技だな」
「京介最悪」
京介と呼ばれた幸の神は「天馬には言われたくない」と苦笑しながら身に纏った風を弄んだ。
そういやさ、「もうすぐ神無月だから窮鬼に会えるね」
「ああ、まぁその前にマサキは夢の神に連れられてどんちゃん騒ぎの中にいるかもしれないな」
「京介も混じればいいじゃん。俺も参加すんだしさ」
「考えておく」
その応えに天馬は嬉しそうに境内にある神籬(ヒモロギ)に飛びついた。
するとサワサワと竹林や木々を風が通り、天馬の笑い声が木霊する。
もし今この神を人間の感覚で見るならば天馬が幸、京介は不幸と見えてしまうのだろう
しかしいくらそう見えても天馬の明るさは人の幸を奪うことで保ち、京介の暗いというよりは落ち着いたような雰囲気は人の不幸を甘んじて受け入れることで生まれているものだった。

神籬の木から離れた天馬にはやはり、不幸の神のイメージであるようなどこか冷めた様な雰囲気は微塵も無かった。

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