れんさい

□なりきり
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なぜおれはこんな所に連れて来られなくちゃならない?
待合室のソファーに座って時計を見ていた。
それで何もすることがないから警察のこれからの動きを予想してみたり、メディアの報道内容を鼻で笑ったりしていた。
ようするに俺の小説が忠実に再現されているから俺を疑ったんだろうが、的外れもいいところ。掠ってもいない。
自分のデビュー作を自分で汚すなんてこと正気の沙汰じゃない。
待てよ……不味いことになった。かやが危ない!
俺が慌てて出て行こうとしたのを抑えるように、俺の目の前に樽腹の剝げたおっさんが立ち塞がった。
「こんにちは、足立俊平くん」
にこやかで気持ちが悪かった。
「気分はどうだい?何か欲しいものはあるかい?」
なんて聞いてくるから感に触って子供じみたことで困らせてやろうと思った。
「PSP。2000型の黄色」
欲しいのは本当だ、もうオークションでしか手に入らない色なわけだし。
「いや、ほらお菓子とかジュースとか……」
「無理やり連れて来られてんだから菓子とか出すのは当たり前だろ?」
だいたい…俺は子供か?
なんでこんな子供扱いを受けなければならない?
仮にも去年成人したわけだし
おっさんはおどおどしながら何か言おうとして急に入ってきた怒鳴り声にもぐもぐと動かしていた口を止めた。
その怒鳴り声は俺に向かって
「藤本かやは今どこにいる!!」
かや!
「保護してくれるんですか?」
「あたりめーだ!だがまずどこに居るかだ!大学は捜したぞ」
居ないんですか!?っと言ってから後悔した。不安になる。
俺の書いた小説の通りに事が進んだら……最悪の場合を想像した
「秩父にあるワイン貯蔵庫を捜して下さい…」
わかった!!そうして嵐のような男が出て行った。できれば俺もあの背を追って行きたかった。
やはり今俺に出来るのは祈ることのみだった


車に駆け乗った山崎雅(ヤマザキタダシ)は直ぐにカーナビをいじった。
なるほど、小説を書いた本人だからこそ警察より分かることもあるわけだ。
埼玉の秩父にワイン貯蔵庫があるのは初耳だった。
が、たしかに貯蔵庫までの道のりを検索することができた。
藤本かやの捜索が始まってからおよそ二時間経ってからの行動だった
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