れんさい

□なりきり
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まるで楽しんでいるかのようだ。
今までにたくさんの死体をみてきたが、このタイプの死体は初めて見た。
血液が全て抜かれ代わりに水が入っている。そして、首には管を通したような二つの穴。
その穴がまるで吸血鬼にでも噛まれたかのようだというのが、率直な感想。
なにがしたい。吸血鬼にでもなったつもりか?
それなら何故、水を入れる必要があった?
疑問を抱きながら喫煙室へ向かった東幸作(アズマコウサク)はあることを思い出し、自分の机へと走った。
あの小説だ!
あの小説の通りに事が進んでいくとしたら、次に危ないのは藤本かや(フジモトカヤ)。
だがよく考えてみろ、木村徹なんて日本全国にたくさんいるだろう。
その中の一人がたまたま殺されて、その手口がたまたま似て、ああ駄目!
考えれば考えるほど違うように思えてくる。それに、こんなことを考えるのは俺の仕事じゃない。頭をガシガシ掻いた
やっと目的の物を捜しだして手に取る。
『バンパイアフィリア』
この小説が今回の事件とそっくりなのだ。
「読み直すしかないよな」
下手すると、この小説の作者が重要参考人として署に送られてしまうかもしれない。
まだ彼は学生なのだから大人の意見の被害者になるべきではない。
俺の立場からではどうすることもできないだろう。それでもなにかせずには居られなかった。
いつも悪い癖だと言われる。捜査の前線で働けばよかったのにと言われたことも一度や二度では無かった。
相変わらずだと自分に苦笑しながら本を開いた。
別に格段素晴らしいところが有るわけではないが、引き付けられる何かがたしかにあった。
そう、今、期待の星の一つとして世に生まれでたばかりの生命のような――
「東さん、東幸作さん!そろそろ」「ああ」
相当長い間読み耽っていたようだった。助手の女性に呼ばれるまで時間が経つのを忘れていた。
「行きますよ。まったく、小説なんか読んで、私にもその時間を分けて欲しいですね」
助手に頭が上がらないのはいつのもことだった。
振り返りもせず報告書原稿を渡すところを、態度がでかくなければいい女なのにと思いながら見てしまう俺は我ながらとことん失礼な奴だと思う。
報告書には小説のことなど一言も書かれていなかった
それは当たり前のことなのだが、気にするべき事でもあった
報告が終わって東は歩調を早めて机へ戻り、密かに他人の意見を求めてネットを巡った。
捜さずともすぐにたくさんの意見が集まった。
その中でももっとも多かった意見は『なりきり』だった。
『真似よりも、なりきっているように感じた』
もしそうであるならば早く藤本かやを保護するべきだ。
それも、日本全国にいる『藤本かや』ではなく、モデルになった作者の幼馴染の
そうしている間に『バンパイアフィリア』の作者であり主人公の立川俊平、本名足立俊平が署に連れて来られたこと耳にした。
これで早くもメディアの攻撃を受けることを決定付けた。
さてメディアはどう報道するだろうか?
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