イナGO

□欲。
1ページ/1ページ

「君、一乃七助くんだよね?」
またか…
神童達3人が日本代表に選ばれてから、さらに雷門の知名度は上がった
喜ばしい事なのだが、こうして知らない人に声をかけられるため喜んでばかりもいられない

「ホーリーロードからずっと応援してたんだ」
例えばこういう人が1番めんどくさい
「ありがとうございます」
お礼を言って急いでますんでって帰らないと、ろくでもない話を延々されることになる
「急いで「これ貰ってください」
遮られて想定外の飲み物を渡されたからありがたく受け取った
これくらいならいつでもいいねって喉に通す

喉が潤って目が回り始める
頭が軽くて目蓋が重い
小さな段差に足を取られて転倒したところで、ぷっつりと記憶が途絶えてしまった


やわらかい感触と、頬を撫でるがさついた何かに意識が引き寄せられた
「起きた?」
体を起こそうにも手足を縛られているため、うまくいかない
なぜこんなことになった?
迂闊すぎたからだ
がさついた手の男を睨んだ
「暴れられても困るからさ」
男はにこにこ絵に描いたみたいな笑顔で俺の目を覗きこんだ
口には何もされていないから叫んで喚いたら誰かが助けてくれるんじゃ無いだろうか

カラッからに渇いた喉を、声帯を震わせる寸前、俺は床に落とされて転がった
「おまえは何にもわかってないね」
あれを飲んだどこで君の人生は終わったんだよ!おまえはしゃべれない俺の人形なんだよ!おとなしく言うこと聞いてれば…!

男が大げさな身振りで早口にまくしたてる
その動きの奇怪さに恐怖を通り越して激しい嫌悪を抱いた
「きもちわるっ…」
思わず溢した言葉にスナップをきかせた平手が飛んできたのは言うまでもない
もちろん拳付きで
「君は人形なんだ!君は人形なんだ!僕だけの人形なんだ!」
目は見開いて荒く薄い呼吸を忙しなくしている男。
大の大人にあらゆるところを殴られ、声が出なくなった
顎が震える
あちこちが燃えるように熱いのに寒くてどうしようも無かった

これまでも理不尽に攻撃を受けたことがあったけれど、これは違う
明らかに人として見られていないのがわかる
人間じゃなくて人形。
言葉遊びなんか無かった

「こんなに腫れてる。まったく…君はダメな子だね。せっかく僕のコレクションに混ぜてあげるって言ってるのに」
あれ?まだ言わなかったっけ?いいよどうせ教えてあげなくちゃいけないし
男は立ち上がると、下手くそなスキップで部屋から出ていった

1人

逃げ出すチャンスだ
すぐに俺は助けてくれと声を上げた
警察を読んでくれ、誘拐されたと
あの男が怖い。
決して報復してはいけない気味悪さ
だからこそ、俺の持っているありったけのナイフで抵抗する
するはずだっただけだ。

実際、声帯が震えることは無かった
元々声なんて出てなかったんじゃないんじゃないだろうか
何度も試したのに声が出ない。
涙が玉を作らずにあふれてくる
嗚咽すら出てこない喉を潰してしまいたくて、垂れ下がっている布団カバーを口に含んだ
吐き気をこらえて奥へと呑み込み、ついには吐瀉物に押し出される
腐り切った白い泡の苦い刺激物質がしみ込んだカバーが広がった
何度か繰り返すうちに何も出なくなる
残った涙と鼻水を出し切ったら渇いて人間を辞めてしまえる気がした


途切れそうになる意識に拍手が聞こえだす
「一回でそこまで落ちたのは君が初めてだよ!うれしいねぇ」
戻って来ていた男が憎々しげに俺を眺め、唾を吐いた
「けど、楽しくないんだよな。もっといたぶってからが本番だったのに」
俺は口に残った物を飲み込んだ

この男が俺を求めるモノにしようとするなら、きっと俺はそれを越えてしまうだろう

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ