イナGO

□めれん
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唇を噛んだ。
初対面の奴とヤっちまった。

「狩屋。」
二日酔いの頭が痛くて起き上がりたくは無かったが、このまま一言も言えずに去られたら、2度と戻って来ないかもしれない。

昨夜、俺は…

「霧野先輩、起きたんですか?」
跋の悪そうな横顔。
手に下げているのは、俺が昨日自棄になって飲んだビールの缶をパンパンに詰めたビニール袋、Lサイズ。

「レモン水作っといたから飲んでください。ランニングして来ますから」
散らかった部屋を片付けてレモン水まで作ってくれて
どっちが歳上だかわからなくなる「ああ、飲んでおくよ」

家賃はほぼ全額俺が持っている。
狩屋は居候だ。
だが、実は居候は俺の方。
家事全般をほぼ狩屋に任せて、俺は疲れて帰って食って寝るだけ。

自分でもこんなに堕落するとは思ってもいなかった
「いつからだっけ」
口に出したところで返ってくることはない。

手にしたレモン水は一口が頭に染みた。

酔った勢いで買った少年と路上でやっているところを運良く?狩屋に見つかった。
はんば連行するように連れて帰られて俺が真っ先にしたことは暴れること
それから家にあるありったけのビールを飲み干すことだった。

「先輩は間違ってましたよ」
そう言ってくれればいい。
声真似をして自分で呆れた。
「やっぱりにてないな」


また一口レモン水を口に含んだ


玄関を乱暴に開ける音
「ちゃんと飲んでるんですね」
ダイニングをちらりと覗きにきた狩屋に、冷ややかな目を向けられた
だけど俺はその目を受けとめなければならないことをした。
「ああ、せっかく作ってもらったしな」
言い方
自分に舌打ちした。
「いいですよね。先輩は」
「そうだな」
「最悪ですね」
笑ってしまった。
しまったと思った時には後の祭り

「俺、先輩と話すの嫌なんでシャワー行きますね」
バスタオルを持ってダイニングから出ていく

「あー、だからダメなんだ」
高校を卒業してすぐ、プロリーグに進んだ俺はかつてないスランプを経験することになった。
今はだいぶよくなった。
二部リーグから一部リーグへ戻って、運がよければスタメンにもなれる。
それでも
ここは学生の部活動じゃないんだぞ!
未だ何度も監督に呼び出されては叱られている。

俺はおれ以外を認めるのが苦手なのも、ありがとうの一言だってまともに言えないのも。
「わかってたって」
狩屋が俺を叱ることを止めたのも、注意することを止めたのも。
全部
「わかってたって」

自分に酔ってたことだって

浴室のドアを叩いた
「入ってもいいですよ。妙なことしないんでしたら」
「ありがとう」
変にぎこちない
でもそれでいい。
ここから変わろう。

風呂場の年食った換気扇を付けてから入る

「先輩。」
「?」
入って目の前にある背中が震えた
「俺がいますよ」

「あんなどこの馬の骨だかわからない奴じゃなくて、俺がいますよ」
シャワーから滴が垂れる。
狩屋の顔は曇った鏡にぼやけてしか映らない。
換気扇なんか意味が無い。
長い間狩屋を靄の掛かった、なんとも寂しいところに置き去りにしてしまっていたと自覚した。
それなのに

「お前がいてくれるのか…?」

震える背がくるりと振り返って、泣き笑いの顔を向ける

「あなたの隣には仲間がいますよ。今までもこれからも。」

そうだ。そうだった。
いつもなら働くことを拒む古い換気扇が、今日は蒸気を良く晴らして
自惚れに酔って曇り切った頭も晴れた

重ねられた唇はいったいどちらからなのか、互いにめれんになった俺らはしらない。


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3/15蘭マサの日おめでとう
これからもずっと2人の愛が続くことを願って

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