イナGO

□バレンタインの幸せ
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2月14日。
カレンダーには赤丸が
この日にここまでこだわるようになったのも今年が初めてだ。
そもそも今までそんなイベントにうつつを抜かしている場合ではなかった。

今は真逆。
足早に朝練へ向かった

着いて真っ先に会うのはもちろんマネージャーと朝係になった部員数名。
早めにコーンやタオルを一通り準備すると、マネージャーのうち2人はボストンバッグを持って屋内グランドに来ていた。

「ハッピーバレンタイン!」
部員が集まり始めるとすぐに、茜さんと空野、菜花が、手の込んだラッピングの義理チョコを配りはじめた

「白竜くんにはこれ」
空野の渡してきたそれにはメッセージカードが添えられている
周りを見渡しても同じように添えられている人はいない
表に返すと
『一乃先輩のチョコ、期待してね(^.^)b』
っとあった。
貰えることは事前に知っているのだから期待しないわけがない
しかしなぜ空野に言われなければならない?
その答えはすぐにでた

「はい。白竜くんにはこれ。」
いつの間にか目の前に現れて封筒とカップケーキを押し付けて来た
相変わらず読めない人だ
礼を言おうとすると、茜さんはフフッと楽しげに笑ってすぐに次の人のもとへと行ってしまう。
気になる封筒の中身は、茜さんらしいバレンタインだった。
写真。
練習試合の時の写真、いつしたか覚えていないようなピースの写真、シュート、一乃のパス
なかでも一番目を引いたのは菜花と水鳥さん、空野と一乃の写真。
裏面にチョコづくりと記入されている
「っ」
慣れないことを懸命に頑張るその姿を、いつも以上に愛おしく思えた

さて一乃はというと、真っ先に渡しに来てくれてもおかしくないはずだが、なにやら女子達と話している

そして水鳥さんに背中を押されてつんのめるように前にでた
一度女子達の方を見たが、気合い入魂のガッツポーズを受けてしまう。
何を今更恥ずかしがることがあるのか、うつむき加減の一乃は耳をほんのり朱に染めていた。

「えっと、なんて言ったらいいか…」
ゴニョゴニョとたっぷり数分、言葉を選んで
「ハッピーバレンタイン…?」
と抱えていたラッピングの箱を恐る恐る出した

「ありがとう」
いつも言いそびれる礼はこんな時にありきたりな言葉で出てくる
それでも言えないよりいくぶんかマシだ
「あのさ、こんなこと初めてで」
一乃の必死なところに思わず抱きしめたくなった。ではなく実際にしていた
「ひゃッ!」
部員のどよめきに臆することなく長く抱きしめた


当然の事ながら後々一乃からのきっついお仕置きにあい、公認とは言えどあれはよくないと菜花に指摘された。
「でも、一乃先輩とっても幸せそうだったやんね。一乃先輩は幸せ?」
放課後の練習後、日誌を書いているところでいきなりだ。
近くには一乃だっているというのに大胆不敵とは正にこのこと
いった本人はなんらとんでもない言葉の手榴弾をセットして帰ってしまった

一乃はと言えば火照った頬の対応に終われている
にもかかわらず拾い上げた手榴弾の使い道は的確だ
「幸せだよ」
小さな嵐が去り、静まり返ってしまったロッカールームに今度は暖かな南風
こちらまで顔が火照った
「ああ、俺も」
「どれくらい?」

隣に座り直して呼吸を感じられる、ゼロ距離まで引き寄せ、歯の浮くような言葉で応えた

「世界中の誰よりも幸せだ」

互いの乱れた息継ぎの合間に、今度は俺の前で作ってくれと欲を含めた

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