イナGO

□記憶追い
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「好きになるならもっとマシな奴にしろよ」
霧野のいらいらした声が響いて思わず耳を塞ぎたくなる。
腕が鉛のように重くて持ち上がらない。
耳が塞げないから首を振る。
霧野はそんなこと言わない。
これは夢だ。わかってる。
それでもそんなことを言われてしまうと、いくら夢でもどこか自分の知らないところで不安に思ってしまう。
視界がぼやけて、瞬きをするとフラッシュ動画のように次々と霧野の姿が流れていくのがはっきりと見えるようになる。
遠い。
遠くなる


朝目覚めて悪い汗をかいていることに気が付いて、そんなに悪い夢だったのかと額を拭う。
そして何事も無かったかのように学校へ向かった。


「神堂、今日は一緒に帰る日か?」
弁当箱を片付けながら聞いてくる霧野は一体に何を思っているのだろうか?
「ああ、一緒に帰ろう」

俺も弁当箱を片付ける。
今朝の夢から思い付く全ての最悪の場合を考えてしまい、昼食は全くと言って良いほど進まなかった。
「神堂?具合悪いのか?」
「大丈夫だ、ただ腹が空いてないだけだ。」
剣城と付き合い始めてからなぜか嘘つくことに慣れた。
「後でしっかり食べろよ」
霧野があまりにも心配そうだったから、食べるよとまた嘘をついた。

放課後まで、俺たちにしてみれば部活が終わるまでの時間は飛ぶように過ぎた。
今思えば放課後、剣城に付いていって優一さんのお見舞いに行っていたら、何も起きずに一日が過ぎたのではないだろうか?

グランドで座り込むと
「疲れた」
霧野が不機嫌そうに口にした。
たしかに前日の雨風でグラウンドがぐちゃぐちゃだから仕方ないとは言え自分でもよくやりきったと褒め称えたいほどの外周。
サッカー棟があるのだからそっちで練習してもよかったのではないだろうか?
円堂監督は太陽の下でやるのが一番だと言うが…

「神堂先輩、」剣城の声に肩が跳ねた。不安を拭えない俺連れて行ってはくれないだろうか。
「今日、兄の見舞いに行くので」
「わかった」
何残念がっているんだ。わかってたはずだ、毎週1人で行のは決まってるから。

「お先失礼します」
剣城は荷物を背負うとロッカールームへ向かおうとして足を止めた
「あ、先輩から昨日借りたDVD返せなくてすいません」
「それなら何時でもかまわない」
たった一日だけで返せなんてそんこと言ったことなど一度だってない。
ましてやオペラのDVDだ。時間などかかって当然た

「明日、」
いえ、なんでもないですと足早に立ち去り残ったのは霧野と俺の2人だった。

「返せなくて、」妙に引っ掛かる言葉を反復した。
それから明日、とまで言って止めたその続きはいったいなんだったのだろうか?
「剣城の様子変じゃなかったか?」
珍しく霧野が剣城の様子を気にする。
俺だけが変だと思ったので無いならば、やっぱり変だったのだろう

後を追ってロッカールームへ向かうと「!!」叫ぶ声。
声の元にたどり着くとそこにはサッカーボールに似た光る球状の物を掲げた、自分たちとそう歳の変わらない少年と球状の発する光から逃れるように腕を顔にかざしている剣城がいた。
そんな出来事は一瞬だった。
光に包まれて剣城の体は消えてしまったのだ。
「報告します。剣城京介の…」
「何が起きたんだ?」
思わず口に出してしまった。しまったと思った時には後の祭り。
少年は俺を視界に捕えるや否や誰かに連絡を撮りはじめる。
「神堂拓人に目撃されてしまいましたが、」
目撃?
確かに見たが、あれはなんだったんだ?
本当にあれは現実だったのか?
剣城はあの場所に……
開きっぱなしの赤い携帯が落ちていた。
「剣城の携帯…」
拾い上げようとすると、ガシャッという不快な音と共に携帯は2つに別れ、どうにかコードで繋がっている状態になった。
「神堂拓人、お前をインタラクト修正する事が決定した。」
意味がわからなかった。
インタラクト修正?
それはなんだ?
「お前からサッカー消す。」
「それは記憶の改変と言うことか!?」
それを剣城にもしたと言うのか?
許せない

「!!」

表情1つ変えないその少年に掴み掛かった。
「お前は何者だ!お前は何者なんだ!」
「神堂拓人、私の名を聞いたところで忘れることになるのだ。」
俺は少年に剣城に当てたような眩しい光を当てられ

次に目にした光景は、ファーストチームが倒れている何とも悔しい光景だった。
過去…?

後ろに立つ少年の声。
「お前は満足に試合らしいことすらできなかった。チームメイトはお前の所為で傷付いている」
「違う!黙れ!」
「NO。化身を出しはしたが、満足に使いこなせもしない。」
「違う!」
「お前はサッカーによって幾度となく傷付いた。痛い。苦しい。辛い。」
「違う…!」
知らぬ間に霧野が心配そうに保険室で寝ている俺に付き添っている場面まで流れる。

もしかしたら今日の朝の夢はこの事を暗示していたのではないだろうか。

「どこに苦痛のある記憶にしがみつく必要がある」
「辛さは乗り越えるものだ。乗り越えた記憶は力になる」
「だが、もう剣城京介がサッカーに関わった記憶は改変した。剣城京介はサッカーに関わらない。」
キーンと頭を打ったような感覚に態勢が崩れる。
「お前は苦痛のない生活を送っている。サッカー等野蛮なものでなく音楽をしている。剣城京介とも出会わない。」

「違う!それはあり得ない!」

場面が変わる
霧野だ。
「好きになるならもっとマシな奴にしろよ」
そう夢では言った霧野が今は
「サッカーなんかやるならもっとマシなモノやれよ」
と言う。

霧野は俺が剣城と付き合うと言った時に「おめでとう!」と今まで見たことないぐらいの笑顔で言ってくれたんだ。
マシな奴と付き合えなど言わない。
ただ、怪我をするたびに血相をかいて駆け付ける霧野なら、サッカーをやめろと言うのではないだろうか?

おそらく言われた。

「神堂拓人。お前はサッカーをしない。剣城京介とも出会わない。」
「しない。出会わない」
「お前からサッカーを消す。」

「剣城京介」
それだけが頭を巡り続けた。
光に包まれて頭が割れそうだと歯を食い縛る間もずっと名前を反復し続けた。


ふと目を開けると穏やかな夕日の中に立っていた。
早く帰らなければピアノのレッスンに間に合わない時間。
少し急ぎ足で歩きながら何故か突然ブラームスのロマンスが頭を巡り始めた。
知名度は低いが、恋人の出会いから別れ、最後には結ばれハッピーエンドで終わるオペラにしては珍しい曲。
その曲のが巡る中
「剣城、」
誰かも知らない名をふと口に出した。
そんな俺は紫の明らかな改造制服を着た少年と擦れ違って、なんだか無性に悔しくなって必死になって何かから逃げ出すように走りだす。

知りもしない大きな思い
無意識な好きだ。
と言う思いに何故だか追い付かれて飲み込まれないよう
スポーツマンのようなフォームで走り続けた


――――
後書き

神堂が付き合い始めても蘭丸は絶対に喜ぶ(喜んだ振りをする)
それを内心でわかっているけど知らない振りしてる神堂。
歪んで不安定な関係に剣城は神堂と付き合うことで入ってしまっていて、
歪みは連鎖して
歴史変動を起こしやすくなっていて
αはその歪みに付け入った感じ

そう思ったから、だから神堂の記憶修正に2人を出してみました

此処まで読んでくださった方、ありがとうございましたm(__)m

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