イナGO

□秋刀魚
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「これ苦手です」
夕食に出された魚を箸で突きながら口にした

鮭とか鱈、ほっけならまだいい。
「好き嫌いはよくないぞ」
「はい。」
教官と暮らし始めて、自分がいかに好き嫌いが激しいか思い知らされた。
あそこでの食事のほとんどはバランス等を考えられた栄養補給食が中心で、好き嫌いなどしている余裕など無かった。
だからと言って普通の食事を口にした事が無いわけではない

ちまちまと骨を取りながら教官の魚の乗った皿を睨んだ。
取られた骨が山になり身のみが皮に張りついて、食べられてしまうのを今か今かと待ちわびているようにみえるのが憎かった。

「ごちそうさま」
半分ほど残して席を立ったら呼び戻された
「できないなら貸してみなさい」
手のかかる奴だと思われただろうか?
教官の手にかかった魚はあれよあれよという間に身と骨に分けられていく
それを見て不貞腐れ、
「魚って食べにくいと思います」
お膳に頬杖をついた。

「膳に肘をつくな。行儀悪い」
「ん」
「それに、秋刀魚って名前がちゃんとあるのだ、呼んでやれ」

「秋刀魚なんてしゃれた名前過ぎて」
秋刀魚の乗った皿が返ってきた。
「全部食べるんだ」
小骨に細心の注意を払いながらのろのろ食べていると、面白く無さそうに鼻を鳴らされたから慌てて食べた

「骨はあったか?」

首をふる
慌てて食べても刺さる骨は無かった
それから
「美味しい」
と思えた。

「骨ぐらいで苦手な食べ物を決めるんじゃないぞ」
「はい」

名残惜しそうに皿の上に残った欠片を摘む自分の箸を、なにか面白い物でも見ているように楽しげに見つめた。

「これからは私が取ってやろう。魚の好き嫌いは無くなるだろうからな」

悔しくもその通りな俺に教官は、笑顔とは到底受け取れぬような笑顔を作って見せた
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