イナGO

□気にする
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誰も信じないと決めていたのに、つい信じて付いていって、支えてやろうって思ってしまう。
最初はそんな不思議とほっとけない奴っていう簡単なくくりにしかおいてなかった。
なのに先月の頭、片付け当番の後2人きりになってしまい、信助くんも待ってくれなかったのかぁって思いながら話すこともなく着替えているとき、その質問は唐突にされた。
「自慰ってしたことある?」

なんにも装備していない俺の頭は想定なんかしていない衝撃に役立たずになる。
そんな俺のことなんて気にしちゃいないようで当の本人は興味津々っといった具合に目を輝かせながらずいずいと迫ってくる。
とんでもない質問をされてしまったと思う、しかし全く役に立たない頭がちょうどよい機会じゃないかと俺を促す。
そうだ、ちょうどよい機会だ。
これを逃したら何時そういった話ができる剣城くん以外の奴を作るんだ?
きっとたったそれだけだった。

「やったことあるよ。自慰」
「狩屋は何時が初めてだった?」
「夢精したすぐ後だったと思うけど?」
それを聞いて嬉しそうにするところがわからない。
「俺も最近夢精した。それで、できる気がしてやってみたんだ」
「ふーん、で、」
「うまくできなくて辛いだけだった」
うまくできないのはそのうちどうにかなる。
自分の体だ、イイところなんて慣れればすぐに見つかる。
加えてやり方だって見つかる。
「狩屋、どうやればいいか知ってる?」
教える気なんてなかった。
でもやっと恥ずかしいこと言ったんだって自覚したらしい頬を染める姿はとっても魅力的で、おかずにしろって言われたら喜んでできる。
とにかく頭がおかしくなっちまっていて心にも無いことを口走る。
「教えてやろうか?」
キラキラした目が見開かれて、ほんとう!?って嬉しそうに声を上げる。
期待させたんだ、教えてやらないわけにはいかない。
いや、嘘だと言ってバカだなって笑ってやればよかったのかもしれない。
だけどそれは信頼を裏切る行為だ。
自分が人には絶対にしないと決めた行為。

徐々に強く速く動かしてやる。
「は……うん、ん」
ロッカールームのソファーの上で俺は天馬くんにナンセンスな講義をすることになった。
誰か見回りとかくるとまずいから、声抑えろとか言ってはじめたけど声は抑えきれていないし、トロトロと遠慮がちに出てくる蜜はクチュクチュ音を立てていた。
恥ずかしさに負けていよいよ腕で顔を隠すから面白くなってもっと刺激を加えて声をあげさせる。
最初に言ったあれはなんだった?
「んん!…っん」
天馬くんの甘い声に俺自身がヤバくなってきたなぁとか考えながら、そろそろラストスパートをかけてやろうと鈴口に指の腹で刺激を与えてやる。
堪えることを知らない天馬くんはビクリと身体を大きく跳ねさせ、ぶるりと身震いしてオーガニズムを味わってまだ未熟な精液を吐き出した。
俺は我ながら慣れた手つきでティッシュを使って上手く受けとめてやれたと思う。それを天馬くんはやけに色っぽい艶のある目で見ているのを見逃さなかった。
「狩屋、すごいや」
にへらっと笑うその誘う唇を俺の唇で抑えてしまおうかなんて思う。
そんなことできるわけ無いのに。
してしまったら、天馬くんはたちまち離れて行ってしまうだろう。そう。俺は相談相手。
クラスも部活も一緒で席も近くて同じ性別で、何より友達だから相談しやすかっただけ。
それ以上でもそれ以下でもないと自分を抑え込んで、脱ぎ捨てられたパンツとズボンを投げつけて逃げるように
「次から自分でできるだろ!」
と叫ぶと同時に過去最高速度で走って帰った。
それからだ。ことあるごとに天馬くんが気になって仕方がなくなった。

剣城くんと付き合うだなんて。
あぁ、おもしろくもなんともない…。
一時は自分でできるようになったよってわざわざ報告してくれたり、、天馬くんに近付けたと思っていたのに……。
天馬くんにとって俺はただのあの時「自慰」を教えてくれた友達で、俺を気にしたり恋愛感情を持つべき対象ではなかった。
天馬くんにとって恋愛感情を持つべき相手は剣城くんただ1人だけだったってこと。
悔しいけど負けたことを認めるしかないなら俺は思い出させることで負けを認めようか。

「俺が手伝った時とどっちがよかった?」
答えなくていい。答えなんて知ってるから。
俺はただ思い出させてやろうって思ってるだけだから。
俺が天馬くんの自慰の仕方を作ってあげたんだよって。
天馬くんのやり方は俺のやり方なんだよって。
「言わないよ」
そう言うのにごめんねって言うその唇を、やっぱりあの時抑えてしまっていたらよかったのだろうか?
そうしたら今、天馬くんの思いは俺に向けられていただろうか?
もう何度目だろう、剣城くんと付き合い始めたって聞いたときから考えてるけど答えはいつも同じだった。
「振り向いてすらもらえない」
当たり前だ。
剣城くんをうらやましいと思いながら一方ではよかったと思っている。
俺と付き合っていたとして、果たして俺は天馬くんを幸せにできたのだろうか?という不安がある。
幸せにできなかったら、いつものように力強く笑わせてやることもできない。
友達として仲間としてその笑顔を支えて続けて行くのだけで精一杯。
でもそれで十分だろうと自分を納得させた。
そういうことが天馬くんの幸せを支えてるってことだから。
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